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分太郎の映画日記

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2007.05.26
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 田原総一郎による原作小説の映画化。
 原子力発電所のある港町を舞台に、若き日の原田芳雄演じる青年やくざが恋人の死の真相を追う中で、原発の関与が浮かびあがってくるが……。
 監督が黒木和雄ということで、東京国立近代美術館フィルムセンターで開催中の特集上映「追悼特集 映画監督 今村昌平と黒木和雄」にて鑑賞。

 『原子力戦争』 評価:☆☆☆

 田原総一郎が小説を書いていたことを知らなければ、それが映画化されていることも知らなかった(正しくは、こういうタイトルの映画を黒木監督が撮っていたことは知識として知っていたが、内容はまったく知らず)。

 はっきり言って、映画そのものはそんなに面白くない。
 話の展開がサスペンスフルでもミステリアスでもなく、結局、心中事件の真相ははっきりしないままで終焉してしまう。原子力発電所の関与も(様々に示唆されつつも)曖昧なままだ。社会派的な問題提起としても弱く、エンタテイメント性も中途半端。
 黒木監督の演出も淡々としていて、1か所を除き、格別に凄いというわけではない。

 では、この映画の何が凄いかというと、1978年の時点で、電力会社による「原発の事故隠し」を、中心テーマに据えている点だろう。

 ご存知のように、今年に入って、電力会社各社が、原子力発電所に起こっていた事故を隠蔽していた事実が、次々と明らかにされてきた。
 多少の疑いは持ちつつも、まさかここまでとは誰も思っていなかったであろうし、それ故、事故隠しの体質があることを早くから見抜き、小説として発表して指摘していた田原総一郎の慧眼と、それを映画にした関係者の努力には、感服するしかない。

 その告発性を明確にするシーンがある。
 主人公を演じた原田芳雄が、原子力発電所の組合員に話を聞きに、発電所の入り口を訪れる場面だ。
 このシーン、いきなり守衛がカメラの方に手をかざして、「撮影はしないでください」と遮ろうとする様子を写し出す。そして、邪魔をされながらも、入り口付近をうろうろする原田を何とか撮影しようした苦闘の跡をフィルムは延々と観客に見せつけるのだ。
 これは尋常の映画の撮り方であれば、カットされるところだろう。ここだけ映画がメタ構造になってしまっているのだから。無くても話の展開に影響はないし。
 このシーンを残したところに、映画の意義がある。テロなどの警戒はあるとしても、守衛所付近が撮影されて困る合理的な理由は、少なくとも私は思いつかない。

 これに関連して、黒木和雄監督の著書『私の戦争』(岩波ジュニア新書)には、次のような一節がある。
最初に目標にしたのは福島第一原発です。田原さんは「福島原発の無事故とは事故を起こさないということではなく、事故を外部に漏らさずにもみ消すことだ」と書いています。ときどき放射能漏れを起こしていたにもかかわらず、地元ジャーナリズムの追及がほとんどなく、真相は闇に包まれていました。原子力発電所では、事故が起きても、秘密主義のもと、ほとんど事故がうやむやに葬り去られているようです。
 撮影は、いわき市に合宿して福島第一原発、第二原発の近くで行われましたが、映画の内容を知っていた原発側は私たちの出入りを一切禁止しました。東電の監視者がクランクインの日から現場近くに張り付き、撮影の様子を仔細に某所に報告している様子もあって、いささか緊張したはりつめた日々のロケでした。

 引用が長くなったが、そうして創られた作品ゆえに、今だからこそ、鑑賞の価値があると言えよう。

 その意味では、昨年、『日本沈没』が内容を大きく変えてリメイクされたように、本作もストーリーを大幅に手を加え、しかし原発の事故隠しのテーマはそのままにリメイクしたらばよいのではないかと思う。
 もっとも今の映画(製作)業界は、テレビ局主導といってもよいような状態なので、テレビ局の一大クライアントである電力会社を批判するような映画は、撮影できないだろうけど。1978年のこの『原子力戦争』も、いわゆるATG方式――ATG(日本アート・シアター・ギルド)と製作プロダクションとが、500万円ずつ出資して映画を製作――だ。

 ということで、繰り返しになるが、原発の事故隠しが明るみに出た今だからこそ、観るべき価値があると思う一作。


【あらすじ】(ネタバレあり)
 東北の原子力発電所のある港町。海岸に若い男女の心中死体が打ち上げられた。
 その10日後、坂田が町へやってきて、この町出身の青葉望という女性を探しまわる。ようやく突き止めた望の実家では、かつて市長だった望の父親から、娘は帰っていないと追い帰されるが、玄関にはかつて坂田が望に買ってあげた日傘があった。漁業組合の組合長をしている望の兄を訪ねるも、対応は同じであった。兄は次期市長選挙に立候補する予定だった。
 その夜、坂田は地元の新聞記者・野上とバーで出会い、心中死体の片割れが望だと告げられる。心中相手の男は、原子力発電所の技師で、新婚半年だった。原子力研究の権威である神山教授がしばらく滞在中であり、原子力発電所に何か起きたと感じていた野上は、スクープをものにして東京に戻りたいと思い、坂田の登場をチャンスと捉える。そして坂田に、山崎の妻・明日香を訪ねるよう示唆する。
 山崎宅を訪れた坂田は、自分のために進んで体を売ってくれた望が他人と心中する理由がない、山崎と望は殺されたのではないかと明日香に語る。すると、明日香は坂田に身を任せるのであった。明日香が山崎が消えた夜の出来事を話し始めた時、警察官が踏み込み、婦女暴行罪で逮捕されてしまう。
 翌朝、証拠不十分で釈放された坂田を待っていたのは、望の妹・翼であった。彼女は姉から聞いていた話で、坂田に好意を持っていた。どうして逮捕を知っていたのかとの問いに、翼は「ここはそういう町だ」と答える。
 翼と別れた坂田は、地元の親分衆に呼び出され、札束を渡されて町から引き上げてほしいと頼まれる。駅まで見送られるが、秘かに町に戻ると、山崎失踪の夜に彼を迎えに来た小林という電力会社の組合員を訪ねる。小林は夜にすべてを話すと約束するが、約束した場所で数人の男に襲われ、坂田は重傷を負ってしまう。彼を手当てしたのは翼だった。
 翼から明日香が会いたがっていると聞いた坂田は、電力会社の関係者とおぼしき人と会っていた彼女を連れ出した。明日香は坂田に、失踪する夜に山崎が明日香に託したという原子力発電所の資料を手渡す。坂田の隠れ家で、二人は再び関係をもつ。
 資料をもって野上を訪れた坂田は、小林が首吊り死体で見つかったことを知る。4番目の犠牲者は坂田かもしれない。そういう野上は、原発事故を示すであろう資料を坂田から受け取ると、原子力発電所を訪れて事故の存在を追求するが、所長にはのらりくらりと逃げられてしまう。そして、新聞社の支局から呼び出しがかかり、取材を断念するように勧告される。
 翼の家では、原発反対を訴えてきた父と、漁民のために容認派の兄とが、望の死をめぐって醜い争いをしていた。いたたまれなくなった翼は家を飛び出し、坂田の隠れ家に逃げ込む。しかし、何者かが襲ってきて、翼を拉致してしまった。
 その頃、諦めきれない野上は、神山教授にすべてを話すが、原子力開発の初期であり、先行不安な石油資源に頼らない社会を築くためには、いまは多少の偽瞞はやむをえないと説得されてしまう。そして、教え子であった山崎が操作ミスを起こしたと自分のところに相談に来たと語り、それが心中の原因ではないかと語るのであった。
 坂田は翼の兄に彼女の行方を問いつめるが、逆に「野良犬」侮蔑され彼に重傷を負わせてしまい、警察から手配される。野上の愛人のバーで、野上の居所を尋ねるがシラをきられてしまう。そして、町で見掛けた明日香の跡をつけ始める。彼女は海岸の松林に入っていくと急に姿を消してしまい、かわりに何十人という老若男女が坂田を取り囲んだ。
 新聞社の駐在所では、野上は若い部下に、自分は記者を続けたいから原発の取材は諦める、将来機会がくると嘘ぶくが、部下は愛想をつかして出ていってしまった。
 海岸の波打ち際に倒れている一人の男。それは坂田だった。そして、脇の道路を走る高級車の後部座席には、神山教授と手を繋いで頭を寄せる明日香がいた。


『原子力戦争』

【製作年】1978年、日本
【配給】ATG
【監督】黒木和雄
【原作】田原総一郎
【脚本】鴨井達比古
【撮影】根岸栄
【音楽】松村禎三
【出演】原田芳雄(坂田正首)、山口小夜子(山崎明日香)、風吹ジュン(坂田の彼女・望の妹:青葉翼)、石山雄大(望の兄:青葉守)、浜村純(望の父:青葉繁)、佐藤慶(新聞記者:野上)、岡田英次(神山教授)、戸浦六宏(新聞社支局長)、和田周(原発会社の組合員小林) ほか


原作所載本

中古ビデオ

自著
『私の戦争』

佐藤忠男著
『黒木和雄とその時代』





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最終更新日  2007.05.28 16:38:42
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