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テーマ:最近観た映画。(39822)
カテゴリ:日本映画(2007)
TOKIOの国分太一主演の、落語を題材にした、無器用な人たちの物語。原作は、今年『一瞬の風になれ』が本屋大賞を受賞して話題の佐藤多佳子。
東京・池袋のシネ・リーブル池袋にて公開5日目に鑑賞。 『しゃべれども しゃべれども』 評価:☆☆☆☆☆ 突っ込み所は結構あったので、評価はやや甘いかもしれないが、なかなか良かった。 原作者の佐藤多佳子女史は、雑誌『月刊MOE』の第10回童話大賞を「サマータイム」で受賞したときからのファンだったりする。 この左腕だけの少年ピアニストと友人姉弟の話は、非常に衝撃的だった。短いページ数の中に凝縮されているものは圧倒的で、単行本の帯のコピーは確か「童話は もう ここまできている」。雑誌の掲載号は大事にしまってある(ので、すぐには取り出せないのだが)。 ちなみに続編の『九月の雨』も傑作。 なお、今はなきMOE出版から出た単行本には「四季のピアニスト」というシリーズ名がついていた。 いずれも短い作品なので、この映画が気に入った人は是非読んでほしい(新潮文庫から刊行中)。 まえふりが長くなったが、なので佐藤多佳子女史が児童文学ではない、大人向け?に書いた『しゃべれども しゃべれども』が発売されたときは、すぐさま購入して読了、その作品世界に非常に感銘を受けた。 私もどちらかと言うと話すのが苦手なので、しゃべることにコンプレックスを抱えた主人公たちに強く共感し、繰り返し読んだ。 たた一点、弱いかなと思ったのは、中心となる落語について。 別に取り上げている噺が云々とか、書き方がどうのこうのではなく、落語はたぶん、文字にした瞬間にこぼれ落ちてしまうものが沢山あるのではないかということ。 落語の良さ・面白さは、“文字”で読むのではなく、“声”を聞き、身振りや雰囲気を肌で感じとるところにあると思う。目で見る文字を100万字費やしても、わずか数秒の声には敵わないことがあるのではないか。 もちろん逆の場合もあろうが、こと落語に関しては、たぶん 声>>>>>文字 という図式が成り立つのではなかろうか。 と偉そうに思っていたが、この原作を読んだ時点での私の落語体験は、 ・亭生で聞いたことは一度もなく、 ・高峰秀子主演の映画『銀座カンカン娘』で五代目 古今亭志ん生を味わったこと、 ・それがきっかけで、志ん生の落語CDを何枚か聞いたことがある、 というだけであった。 なので、まったくの落語素人だったわけだ。 その後、現在に至るまでに、立川志らく等の落語を何度か生で体験している。 とくに、一昨年から池袋の新文芸坐で定期的に開催されている、立川志らく師匠による「シネマ落語」には、欠かさず通っている。 そうした経験を重ねるに連れ、上記の「落語は文字ではなく声」(さらには生の体験)と益々感じるので、たぶん本質を外していないと(勝手に)思う。 その意味で(ようやく本題です)本作品が映画化されたことは、落語部分が“文字”ではなく“声”(と演技)になって体験できるので、発表があってから、ずっと楽しみにしていたものだ。 もちろん、映画化に対するちょっとした不安もあった。 ひとつは、主人公が大丈夫かという点。俳優に落語が演じられるのか、逆に落語家に演技させた場合は落語以外の場面が駄目になってしまうのではないか。 2点目は、原作通りだと時間が足りなく、話が走り過ぎなければ良いな、ということ。 結果はまったくの杞憂だった。 主人公の国分太一はみな素晴らしく、脚本も原作を損なうことなく、うまくまとめていた。もちろん、落語を聞き慣れた“プロ”の方からは、あれこれ不満もあるだろうが。 主人公の会話教室?に弟子入りする人数は原作よりも1人絞られていて、口べたなヒロインの香里奈、関西弁でいじめられる小学生の森永悠希、口べたな野球解説者の松重豊の3人。 この改変は映画の尺を考えれば正解だろう。 改変ということでは、原作では吉祥寺が舞台であったのを、下町に変更したのもvery good。随所に移される東京の町並みは、21世紀の東京都は思えないような感じで、江戸から連綿と続いている下町の香りが画面に匂い立つような映像で、良かった。 その流れで、ラストの隅田川の水上バスでのシーンは、原作にはないものだが、これはこれで映画の締めとしては悪くはない(好みの問題はあるが)。 役者の中では、まずは小学生の噺家?を演じた森永悠希が上手い。彼の話す「まんじゅうこわい」の関西バージョンは、すでにオーディションには暗記して臨んだというだけあって、非常に面白かった。将来が楽しみな逸材。 香里奈も、『深呼吸の必要』以来、久々によかったように思う(ひたすら“怖い顔”な訳だが)。浴衣姿とラストの笑顔が印象的。 松重豊も独特の持ち味を十分に活かす役柄だったし、主人公が密かに惚れている占部房子も日常感あふれる好演。 そして主人公の国分太一。 最初に配役を聞いたときはかなり不安だったが、予告編を見て一安心。 実際に映画を鑑賞すると、結構すごいの一言に尽きる。真面目で一本気な青年落語家を、なりきって演じている姿は、そのまんま私のイメージ通りの三つ葉だった。 白眉はやはりクライマックスで演じた「火焔太鼓」だろう。生の落語を上述以外はほとんど聞いていないが、たぶん下手な二つ目さんよりはマシなのではなかろうか。 DVD発売時には全編を通して収録して欲しいなぁ。 落語の語りとしては、伊東四朗演じる師匠の「火焔太鼓」も独特の味わいを生みだしていて素晴らしかったが、この映画で話される落語の中での一番は、祖母役の八千草薫が庭掃きしながら口にする「まんじゅうこわい」ではなかろうか。さすがに件の名女優、恐るべし。 【あちゃー、映画の筋に関係する話を述べる字数がない……】 落語を落語として取り入れた映画は、ありそうで実はあまりないが(『幕末太陽傳』などの傑作はあるが、落語そのものが語られるわけではない。昨年の『寝ずの番』も落語の師匠が亡くなって……という話だが、落語そのものは極短いシーンを除いて演じられていない)、落語映画の傑作として後世に残る作品なのではなかろうか。 『しゃべれども しゃべれども』 【製作年】2007年、日本 【配給】アスミック・エース 【監督】平山秀幸 【原作】佐藤多佳子 【脚本】奥寺佐渡子 【撮影】藤澤順一(JSC) 【音楽】安川午朗 【主題歌】ゆず「明日天気になれ」 【落語監修・指導】柳家三三、古今亭菊志ん 【出演】国分太一(今昔亭三つ葉:外山達也)、香里奈(十河五月)、森永悠希(少年:村林優)、松重豊(元プロ野球選手:湯河原太一)、八千草薫(三つ葉の祖母:外山春子)、伊東四朗(今昔亭古三文)、占部房子(村林の叔母:実川郁子)、建蔵(三つ葉の兄弟子:今昔亭六文)、日向とめ吉(三つ葉の弟弟子:今昔亭三角) ほか 公式サイト http://www.shaberedomo.com/
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