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カテゴリ:中年漂流
母が家を処分し、高齢者向けの下宿に入った。 父が亡くなって約10年、 衣料品販売の仕事をしながら一人で家を守ってきた。 商売でお金を回すことの難しさ、 家を維持して行く難しさ、 それに加えて母本人の身体の衰え、 いろんなことを考えて 住む所を自分で探し、 介護が必要になった時には ケアマネージャーさんが介護サービスの計画を練ってくれる下宿で 一人暮らしすることを自分で決めた。 建築を生業としている自分の息子(私の弟)に家の売却を頼み 友人数人の手を借りながら荷物をまとめた。 普段生活を共にしていない近くに住む息子の家族と暮らすことは選ばなかった。
「死ぬまで住む所だからね」 自分で考え自分で決めて自分で動く。 三従七去なんて言う言葉を、 私でさえ家庭科の時間に聞いたことがあるのだから、 更にその一つ前の世代、戦前の教育を受けてきた母は、 昨年傘寿を迎えた女性には稀有な気質の人だとつくづく思う。 (責任を引き受けるのは一寸苦手みたいだけれど^^;) 私はと言えば…。 夫とのささいなわだかまりや「ずれ」のようなものがあって 多少の沈黙の続いた時、 帰る所がなくなったんだな、と突然気付く。 高い天井、生成り色の壁、壁に飾られたパンで作ったリース、 母がここだけはと張り込んで庭師を頼んでつくった小さな庭、 日本間には障子から柔らかな光が差し込んで 弟の生まれたばかりの長男や次男が眠った。 そして茶の間で番茶を飲みながら二人で話した、たくさんのくだらない噂話。 母はそんなものとどんな折り合いをつけたのか。 後ろ髪を引かれるような気持で新しい所に持って行ったのか、 それともきれいさっぱり捨てていったのか、 いい思い出として胸にしまって行ったのかは分からないけれど 私は一つ、大事な拠り所を失くしたような気がして 時々、いい年をして とても心細くなる 。
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