何年か前。
臨時アルバイトさんの送別会だった。
こぢんまりしたレストランの1階を借り切り、
同じ係10人程度の集まり。
となりの課の某女史が、ある資格を持っていると話題になった。
彼女、業務知識も客あしらいもすばらしいけれど
内輪で話をするときはちょっと言葉遣いが荒くて、
目下に厳しいと言うか、罵倒に近い物言いをすることがある
大柄で、ぽっちゃりよりもう少しボリュームも迫力もある
風貌を持つ彼女は、
ウチのセクションでなくとも
話題になりやすい人だったとは思う。
「あの人、○○検定持ってるらしいですよ」
ある女子が言う。
「1級でしょうかね、2級でしょうかね」
「1級って言ったら英検の資格も要るらしいよ」
「へええー あの人が」
ぽつぽつ口を挟む人がいて、
なんとなくあまり宜しくない雰囲気の、
どよんとした笑いが広がる。
「あの人が○○?へえぇぇ、いがあぁあーい」
大手取引先のコネで入った
何でも野放図に言いたい放題の若いコが大袈裟に驚いてみせる。
そして続ける。
「○○検定って1級とか2級とかでしょ?
特大ってあるのぉ?ギャハハハハハ!」
男性陣の笑い声がすっと消える。
慌てて女子達が笑うのを止める。
最後まで自分の後輩の容姿を貶められて
ウフフフ、ウフフフ、
とお上品に、さも楽しそうに笑っていたのは
カワイくてスタイルもいい、五十路に手が届くリーダー。
私、こういう若い社員やリーダーの行為を
「容姿を侮辱する」
って言うんだと思っていた。
だから、オリンピッグというキャラクターを作って、
ぽっちゃり体型のタレントでコメディエンヌで女優の
渡辺直美さんにぶたの耳をつけるという発想
(後述するようにそれだけじゃなかったみたいですが)
を聞いて最初に思ったのは、
「容姿を侮辱」じゃなくて
ああ、かわいいだろうなあ
だった。
いきいきして、いろんな表情をして、広いステージを所狭しと
走り、踊り、任された役目を十二分に果たすんじゃないかって
思った。
このアイデアは
東京オリンピックの開会式と閉会式の企画を考える人たちの
グループラインに上がったメッセージ。
渡辺直美さんは、過去のオリンピックのハイライトシーンを
空から飼い主の宇宙人と一緒に観て興奮している
檻の中の豚という役回り。
その豚が、地上に降臨するんだったらしい。
(→文春オンライン「渡辺直美をブタ=オリンピッグに」東京五輪開会式
「責任者」が差別的演出プラン」)
グループラインに上がった途端に
「容姿のことをその様に例えるのが気分よくない」
「女性目線かも知れないが、理解できない」
「眩暈がするほどヤバイ」
等々批判され、発案者はアイデアを撤回。
いろんな意見があるのは構わないと思う。
でもこれって「容貌への侮辱」とか「女性蔑視」なのかな。
じゃあ私は、かなりズレてるんですね。
人間の尊厳にかかわる大切な事を慮る前に、
オリンピッグになった渡辺直美さんのキュートさや笑顔、
揶揄する人が居たって、そんなの跳ね返すだけの
彼女にしかできない(彼女に似た容貌を持っている何人にもできない)
圧巻のパフォーマンス、
檻を破り、解放や克服、自由、差別撤廃のアイコンとなること、
それらが
ぽっちゃり体型や+サイズの人たちの新しい魅力を発掘し、
彼ら彼女らを励ましたり、
活動の場が広がったりすることを夢見た私は
差別に鈍感な前時代の遺物ってことなのかな。
ブタの演出→容貌(太目ってことよね)を侮辱した
って、ちょっと短絡的な気がするのだけど。
結局このアイデアは発案段階で撤回したにも関わらず
外に漏れ、発案者が辞任。
どのみち、日の目を見る企画ではなかったのに。
3月19日、渡辺直美さんが自らの公式youtubeチャンネルで
このアイデアについて
「もしも、その演出プランが採用されて、私の所に来た場合は、
私は絶対断ってますし、その演出を私は批判すると思う。…
言い方は悪いですけど、普通に面白くないっていうことと、
意図が全く分からないっていうこと。これはシンプルに思う」
(→HUFFPOST「【否定】渡辺直美さん「絶対断るし、批判する。」
容姿侮辱演出「芸人なんだから」「何とも思ってない」の声に)
さらに
「決めるのは私、決めるのはあなた。自分自身なんだと
いうことも伝えていきたい」(前掲記事)
とも言っていたそう。
内輪の発案段階で否定され、撤回したアイデアが外に晒されて
炎上して企画倒れになるんじゃなくて、
廃案は廃案のまま葬られるか、
渡辺さんがご自分の判断でお断りする、という形で
終わるのが一番よかったんじゃなかろうか。