フランス人と結婚してフランスに住む日本人の99%は、クリスマスが近づくにつれ、チック症・不眠・鬱・手足の震えや痺れ・抜け毛・食欲不振・生理不順・不正出血・腹痛・頭痛・下痢・嚥下障害・めまい・動悸・吐き気などの様々な心身症の症状が出てくる。
これがいわゆるノエル・ブルーだ。
フランスの伝統的なクリスマスは、いってみれば日本の伝統的なお正月のようなもの。
半ば義務的に親戚一同が集まる。
親戚の中には当然、価値観の合わない人、会いたくない人だっている。
クリスマスの社会的・経済的ストレスは、大人であればフランス人でも感じる人は多い。
よっぽど付き合いが好きな性格でなければ、ヨメやムコなど「外から来た人」にとっては疲れるものだ。
まして外国人…しかも文化背景と言語が全く違う日本人ともなると更に疲れるだろう。
- クリスマスプレゼントは大人も含む全員に
フランスでは貧しかろうとなんだろうと家族親戚全員へのプレゼントを選ばなければいけない。時間もお金もかかるし神経も使う。プレゼント選びでクリスマスになる前から何週間もストレスがかかるのである。
- 処分に困るゴミ大量発生
苦労に苦労を重ねたクリスマスプレゼント選びの代償として、時間もお金も神経も全く使われていないと思われるゴミのようなプレゼントを山ほど貰う。
私の友人Yは別にタカビーな人ではない。むしろ日本人女性にしては非常に物質的な価値観が弱い人だと思う。
だが、そんな彼女も、余りにもゴテゴテとした嵩張るばかりの安物クリスマスプレゼントに辟易し、毎年こっそりゴミに出しているそうだ。
「私がクリスマスプレゼントにあげたアレ、どう? 飾ってる?」などと後で言われないかびくびくするという。
でも、実用品ならまだしも、醜悪な非実用品だったらやっぱりそのまま捨てるしかないと彼女はいう。そりゃそうだ。
「でも、いつも私がゴミに出すクリスマスプレゼントのガラクタを、ゴミ収集が来る前に持ってく近所の人がいるんだよね。もしかして来年のクリスマスにプレゼントとして誰かにあげるつもりなのかな。私も子供が生まれて切りつめなければいけないことだし、これからは捨てないでそうしようかな…」と彼女は呟いていた。
- 肉体的苦痛
ヘビーな料理をこれでもかと大量に食わされる。
涙目になっていてもフランス人のオバチャン族は容赦しない。
「何ダイエットしてんのよ! あんたは痩せすぎなんだから、もっと食べなさいよ!」と食べさせられる。
食べないと気を悪くされる。
しかし、言われる通りに食べていると、日本人の平均サイズの胃袋の場合、当日の夜に気分が悪くなって吐いてしまうか或いはわざと吐くかしないと、翌日から数日間は消化不良で苦しむことになる。
- フランス語ができてもできなくても苦痛
フランス語があまりできない人は長時間殆どフランス語がわからない中でニコニコしながら過ごさなくてはならないので大変。
フランス語が中級の人は会話が全部わかるわけではないのにニコニコしながら全力を傾けて会話に参加し続けなくてはならなくて大変。
フランス語が上級でもフランス人配偶者の親戚が性格が悪かったり民度が低かったりすると絡まれたりして大変。
そういう人が親戚の中にいると
「日本って貧しい国なんでしょ。フランスに来られてよかったね。嬉しいでしょ」
「産児制限があるそうだけど、君たちが子供作る場合は2人以上つくったらたとえばもう日本に住むことはできなくなるの?」
といった、本当に無知なのかそれとも意地悪でわざといってるのかわからないような質問を延々と相手しなければならない。
- 遠隔地に住んでいると、お泊まりでノエルに参加しなければならない。
…とまあ、こんな感じだそうだ。
私もクリスマスを「義母の退屈な会話の相手をさせられ、鵞鳥の強制肥育のように食べさせられるのをどうしても免れられない日」としてストレスに感じていたが、他の人の話をきいているうちに、次第に自分はラッキーだと思うようになった。徒歩20分・メトロで2~3駅と近いのでお泊まりはあり得ないし、少なくともプレゼント準備の心配がないし、集まる人数が少ないし義母以外は話が面白い人たちだからだ。
(夫の実家のクリスマスがフランスの一般家庭に比べとても地味であっさりしているのは、葬式以外教会には縁がなさそうな左翼インテリ家庭である上に、なにより夫が一人っ子で従兄弟も一人もいないことに原因があると思う。義父母+私たち+生涯独身を貫いてきたおじさん一人と夫に先立たれたおばさん一人で義父母宅でクリスマスディナー。とくにシステマティックにプレゼント交換ということもしないので、行く時は普段と同じように手みやげに花やチョコレートを持っていくだけ。)