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貴方の仮面を身に着けて

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2010/07/30
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ダイヤ

真彦の部屋は、にぎやかだった。

鳥船は話上手で、真彦を刺激せぬように、直接に村を連想させる話題は避けつつ、自分や高望の事を話して聞かせた。鵲の組の者は、子供達と一緒にいても不自然に見えない様に、私服での警備を申し付けられていた。この集まりは、傍から見れば屋敷に住まう子供達と友人の集まりのように見えた。柚木も時折口を挟み、鳥船が面白おかしく受け答えをして笑い声が上がった。鵲は言葉少なに暖かいまなざしで一同を見ていた。桐原もお茶や菓子類の補充に顔を見せた。桐原は階下に戻ると、いつにない真彦の楽しげな様子を電話で幸彦に伝えた。

部屋の中を干瀬が跳ね回り、菓子のつまみ食いをしていたが、真彦も柚木も知らん顔をしていた。他の者には干瀬は見えなかった。干瀬は鵲の側に何度もまとわりついてはささやいていた。
「お前の心が紅い涙を流して叫んでいるぞ。ワシには聴こえる。お前もワシの声に耳を傾けよ、ワシに守らせろ、お前も」
鵲は何も知らぬままに、真彦と柚木を見守っていた。

幸彦は古本屋の事務所の書斎机に居た。前のソファに三峰が優雅に腰を下ろしていた。桐原からの電話の会話は、耳の良い三峰にはすべて聴こえていた。三峰は微笑した。
「真彦様がお元気になられて良かったですね」
「少しだけどね。僕も後で様子を見に行きたいな」
「私がご一緒致しましょう。白神は手を離せないでしょうから」
「そうだね。お前も鵲に逢いたいだろう」
三峰は何も言わなかった。鵲の或る思いに気がついていたからである。それは過去の傷に由来していた。そして今度の処置に対しても。幸彦は三峰の気持ちを察して言った。
「真彦の事は、鵲がいてくれたお蔭だ」
「あれへのお褒めの言葉、ありがとうございます」

書斎机の上に一通の封書が置かれていた。幸彦は封書を開き薄緑の便箋を取り出した。
「朱雀からだ」
幸彦はしばらく真剣な顔で字面を追っていた。
「百合枝さんの具合も落ち着いた。もうすぐ戻れるそうだ。うれしい事が続くね」
「また朱雀の惚気を聞かされるのかと思うと、どうも」
わざと三峰は眉を寄せてみせた。幸彦は笑った。
「昔の朱雀だったら、考えられないよね」
「紫苑が生まれてから、朱雀も変わりました」
「それで良いと思うよ。僕だって人の子の親だ、朱雀の気持ちが少しは解る気がする」
「そうですね」
三人の男達は皆、息子を持つ父親だった。

夕刻となったので、鵲は部屋を辞そうとした。だが真彦は渋っていた。柚木がなだめた。
「鵲さん達にだって、都合があるんだ」
茶碗を下げに来ていた桐原がさり気なく割って入った。
「真彦様も久しぶりに沢山お話になられてお疲れでしょう。お夕食まで、ひと休みされては如何でしょうか」
真彦は口を尖らせて黙っていた。疲れていたのも事実であった。久しぶりに明るい気分で過ごした時間をまだ終わらせたくない気持ちもあった。真彦は鵲を見た。
「晩御飯、お前達と一緒に食べたい」
鵲は戸惑った。当主と盾が同席して食事をするなど、許されぬ事であった。桐原には鵲の考えが理解出来た。
「お夕食もこちらのお部屋でなさいますか?真彦様」
「僕は、この部屋から出るのは嫌だよ」
真彦はぶっきら棒に答えた。
「では、鵲様達の分も、このお部屋でご用意致しましょう」
「解った。じゃあ、それまで僕も一眠りするよ」
「畏まりました」

桐原は鵲に頷いて合図を送った。
「恐れ入りますが、食器を下げるのをお手伝い願えますか、鵲様」
盆を持って一緒に廊下に出ると、桐原はささやいた。
「あの部屋なら食堂より人目につきません。真彦様のご希望に添って差し上げて下さい」
「お気遣いありがとう御座います」
「竹生様は夜半にお戻りになるご予定です。それまで、新しい部下の方々と真彦様が馴染まれる良い機会かと存じます」
「私は良い部下を持ったと思います」
桐原は微笑した。
「それは、鵲様だからですよ」
「お前だからだ、鵲。夢はお前に助けを求めている」
干瀬が鵲の耳に囁いたが、鵲にも桐原にも干瀬の声は届かなかった。干瀬はひょいひょいと廊下を飛び回った。
「まあ、良い。鵲にも何時か届くであろう、ワシの声が」






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Last updated  2010/07/30 06:01:57 PM


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