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貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

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2010/09/01
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ダイヤ

「鳥船」
竹生が言った。鳥船は身体を硬くした。今この場で切り捨てられても仕方ないと覚悟した。だが次に鳥船が耳にしたのは、意外な言葉であった。
「お前が気に入った」
竹生は鵲に言った。
「立たせよ」
鵲は鳥船を助け起こした。竹生は満足気な顔で鳥船を見ていた。
「大抵の若い盾は、己の席次を気にするか、目先の事しか見ようとしない。お前のように物事を見る者が側にいるのは、鵲の為にもなるであろう」
鵲も言った。
「私も鳥船を頼りにしたいと思っております」
「鵲様・・」
鵲にふらつく身体を支えられながら、鳥船の思いは強く固まった。
(鵲様を、必ず盾の長にしてみせる)

「高望」
「はい」
高望は名前を呼ばれて緊張した。
「こちらへ来い」
高望は竹生の前に進み出た。竹生は高望をじっくりと見た。

「鵲の身も心も守り切るが己が務め、お前はそう思っているな」
高望は眉を開いた。己の考えを見抜かれた驚きで。
「仰せの通りで御座います」
「私は長の年月、お前の父と共にいた。火高の事は良く解る。お前は父に良く似ている」
父の火高は高望が物心つく前に亡くなっていた。
「私は父を覚えておりません」
「お前が覚えておらずとも、血は争えぬというやつだ」
竹生は微笑した。高望は大きく息を吐いた。そうしなければ、再び呪縛に陥ってしまう気がしたからである。
「お前は我が良き部下だった者の息子、期待しているぞ」
「ご期待に副えるよう、精進致します」
「本当に良く似ているな、その性根までも。お前の事も気に入った。お前はもっと強くなれる。お前に相応しい教師を見つけてやろう」
竹生は満足げに二人を見比べた。そして鵲に言った。
「良き部下を持ったな。末永く良き長として勤めよ」
「ありがとうございます」
鵲は竹生の様子に胸をなでおろした。

「鳥船」
「はい」
「お前には更なる知識が必要だな。書斎の使用を許可する」
竹生は立ち上がった。
「二人とも付いて来い」
訝る鵲に竹生は優しく申し渡した。
「お前は残れ。私が戻るまで、あれの側に居てやれ。私がいないと寂しがる」
鵲には誰の事を指しているか解っていた。鵲は頭を下げた。

「素晴らしい蔵書ですね」
鳥船は歓声を上げた。元は剛三の書斎だった部屋である。書棚には古今東西のあらゆる本がぎっしりと詰め込まれている。
「好きなだけ読むがいい。だが本当に必要なものは、この奥にある」
竹生は書棚のひとつに手をかけた。どういう仕掛けか扉が現れた。古びた扉であった。鳥船と高望は顔を見合わせた。竹生が扉を開けた。後について二人も奥へと進んだ。細い通路の奥に広い部屋があった。窓はない。様々な器具の並んだ机と寝台があった。一人の小柄な人物が寝台に寝そべり、黄ばんだ皮表紙の本を読んでいた。青い服を着た子供に見えた。子供はじろりと侵入者を見た。
「何しに来た」
竹生は子供に恭しく頭を下げた。
「鵲の組の者、新しくこの屋敷に住まう者です」

子供は起き上がった。
「ふーん」
二人は竹生が敬意を示している事と、子供の尊大な態度に戸惑っていた。子供はじろじろと二人を見た。子供は鳥船を指差した。
「お前、秀明(しゅうめい)に似ているな」
鳥船は驚いた。
「秀明は、私の曽祖父にあたります」
子供はにやりと笑った。
「やっぱりな、漣(さざなみ)の家の者か」
何故こんな年端のいかない子供が、曽祖父の事を知っているのか。鳥船は、あっと思った。
「もしや、マサト様?お亡くなりになったはずでは?」
「そのつもりだったんだがな、呼び戻された。おちおち死んでもいられねえんだ」
竹生を見て、マサトは再びにやりと笑った。

「俺がここにいるのは内緒だ。盾でも知ってる奴はほとんどいない。誰にも言うなよ」
マサトは寝台から降りた。そして机の上のナフキンをどけた。様々なケーキが山盛りになった皿が現れた。マサトはひとつを掴むと頬張った。
「まあ、ここには他にも住み着いている奴がいるがな」
ケーキの皿に手を伸ばしている干瀬を見ながら、マサトは言った。干瀬の姿は二人には見えない。干瀬は首をすくめたが、机の上にしゃがみこみ、両手にケーキを持ってかぶりついた。
「俺は今、策を練っている。漣の家の知識が必要だ。それにそっちのでかいの、雷(いかずち)の家の秘伝、お前が受け継いでいるんだな」
雷の家の秘伝は一子相伝、父を失った高望はかろうじて存命だった祖父にそれを教えられた。何よりも存在自体が秘中の秘、他家のみならず家の内でも知る者なき、長と嫡男だけの秘儀であった。
「秘伝の事を、何故?」
「伊達に六百年も村の守護者をやってたわけじゃない。色々と知ってるのさ」

マサトはケーキをもうひとつ取るとぱくついた。
「このクリーム、美味いな。香りがいい」
「アトリエ・エルダールのものですね。最近評判の」
マサトはじろりと鳥船を見た。
「お前、詳しいな」
鳥船は頭を下げた。
「恐れ入ります。明日、真彦様ご所望のアイスクリームを買いに行きます。マサト様にもお届け致しましょうか」
マサトの顔がぱっと明るくなった。
「そいつは楽しみだ。俺の分、忘れるなよ」
「心して」
マサトはクリームのついた指を舐めた。
「鵲を置いて来たのは、あいつに見せたくなかったからだろう?竹生」





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Last updated  2010/10/05 03:19:09 PM


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