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貴方の仮面を身に着けて

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2013/03/22
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ダイヤ

鍬見(くわみ)は奇妙な卓真(たくま)の様子が気になった。鍬見はじっと卓真の顔を見た。卓真は必死な目をして鍬見の顔を見ていた。やがて卓真が言った。
「寒露(かんろ)様、寒露様ですね?」

今度は鍬見の方が驚いた。
「いや、私は」
卓真は夢中になって叫んだ。
「いえ、そうに違いない。私は幼少の頃より、何度もお姿を拝見させていただきました!」
卓真はその場に平伏した。
「ご無礼を!ご無礼を!何卒ご容赦の程をっ!」
信夫(しのぶ)も驚いた。寒露とは村の守護者であり、先の盾の長でもあった者。歴代の盾の中でも優れて誉れ高き盾の一人であった。鍬見は静かに言った。
「私は寒露様ではない。似ているとしたら、私もまた霧の家の出、そのせいであろう」
卓真は納得しなかった。地に両手をついたまま顔だけを上げ、卓真はなおも言い募った。
「いえ、その御顔は、どう見ても寒露様でいらっしゃいます。寒露様でなければ、どなただとおっしゃるのですか?」

不意に月の届かぬ闇の中から声がした。
「俺の弟だ」
三人は同時にその方角を見た。

黒いゆるやかなシャツに黒いズボンの男が影の中から現れた。襟足で切りそろえた髪は絹糸の如く艶やかにまっすぐで、男が歩を進めるたびに顔の半分を隠した前髪がさらさらと揺れた。男は鍬見の傍らで足を止めると、親しげに鍬見の肩を抱いた。
「こいつは俺の弟だ。俺の、霧の家の寒露の、大事な弟だ」
鍬見と良く似た顔が、いたすらっぽい微笑を浮かべて卓真を見た。
「お前が間違えるのも無理はない。朝来(あさご)の息子、卓真」

卓真は激しい混乱の中にいた。目の前に崇拝する寒露がいるのだ。卓真は叫んだ。
「寒露様!お会い出来て光栄です!」
卓真は地面に額を擦り付けた。
「寒露様の弟君とは知らず、重ね重ねのご無礼、申し訳御座いません!」
信夫も慌てて共に頭を下げた。寒露は軽く笑った。
「兄弟が似ていて当たり前だ。二人とも顔をあげろ」
二人は素直に従った。
「今宵の事、他言は一切無用だ」
寒露の目が赤く光った。二人の背筋が凍りついた。今の寒露が”人でない”事を二人は思い出した。
「我らは特別なお役目の最中だ。その意味、お前達にも解るな?」
再び二人は頭を下げた。信夫が言った。
「はい、仰せの通りに」

二人が顔を上げた時には、そこに兄弟の姿はなかった。

(つづく)





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Last updated  2013/03/22 10:14:31 PM
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