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Whims and Caprices - 気まぐれな日々

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Oct 26, 2004
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カテゴリ:カテゴリ未分類
昨夜帰ってきた旦那の顔は何処と無く晴れ晴れとしていた。

ここ何年か、彼は仕事で帰宅時間が遅くなる事が多いので、彼の為の夕飯を家で用意しない。
それでも以前は帰りが余程遅くなくお腹が空いた時は彼も電話で食べ物があるかどうか聞いていたりした時期もあるが、最近では食べたければ自分で何かを買ってくる事がほとんどだ。
時間が無いと食事をスキップしてしまう様な人だから、食べられる時には好きな物を食べたいのかもしれないし、ある意味では彼なりの私への気使いでもある様な気もする。

彼が夜中に電話して「お腹空いたけど何かある?」等といえば、何もなくても私が何か料理するのを彼は知っているから。
私もそこで「彼が私の夕飯を毎日食べてくれないなんて、外で何かあるのかしら・・・」等と寂しくなったりせず、「私の美味しい料理が毎日食べられ無いなんて、私はいいけど、あなたは損してるわね」等と抜かしてしまう女なのを知ってか、彼も堂々と深夜に旨そうなテイクアウトフードをダイニングで広げたりしている。
毎日、今日は彼は家で夕飯を食べるのか・・・と毎日の献立と作る量を気にしていると腹も立つ事もあるが、今の状況ではそんなストレスもあり様がないので、お互いにそれで満足している。

昨日も彼は帰ってくるなり「ただいま!」のあいさつをし終わるか否かの素早さで、どこかの焼肉弁当に大量のキムチを乗せて食していた。
食べている間も彼の微笑み、いや、ニヤケは止まらない。
弁当が美味しいだけでは決して浮かばない位の、心の底から浮き上がってくる大きな笑みだ。
余りに幸せそうなその微笑に、私も旨そうな焼肉弁当を食べている彼を横目に、本当は言いたかった「キムチいっぱい乗せて一口食べさせて」の一言が言えなかった。
はて、彼はいったい何がそんなに幸せなのか?
ああ、そうか、「彼女」か…。

彼が彼女を見かけたのは2ヶ月以上前、麻布での出来事だった。
彼女の姿を見て彼は一目惚れしてしまったらしい。
しばらくの間、彼は用意周到に彼女について分かる事を調べていた。
彼女がまだ若く、そして彼女のパパがそろそろアメリカに帰えってしまうかもしれない事も知った。
そして、そうしたら彼女には新しい家が必要な事も。

そしてある日、彼は彼女と初めてのデートをした。
その時の彼の感想は「なんて彼女はセクシーなんだ!見るからにヨーロッパ大陸生まれだと分かるある点だけがちょっと気になるけどね」。
目をキラキラさせて「SEXY」とは、妻としては聞き捨てならない言葉ではある。
しかし、恋した時のドキドキした気持ちが大好きな私としては、彼の幸せな顔を見て何も言わなかった。

私の旦那を夢中にさせたデートから何週間かして彼女のパパがアメリカに帰る日が決まり、彼女は旦那のモノになる事が決まった。
その時に旦那が彼女をこう表現した。
「今日彼女とまた会ったんだけど、彼女は最高にEroticなんだ!」
そうか、Sexyな女が自分の物になりそうだとEroticにまで昇格するのか。
ふ~~ん。
そうね、実は恋する気持ちの頂点にいる時期とはこんなタイミングで訪れるものなのかもしれない。
その後、彼は暇さえあれば彼女の事を考えていた。

昨夜はそこまで恋焦がれた彼女が自分の物になったのだろう。
ニヤニヤも頷ける。
そして彼は彼女についてこう言った。
「今日、ある人が僕らしい選択だって言ってたよ。一見はちょっとシックだけど、よく見るとワイルドだって。見たらわかるよ、本当にセクシーなんだ」
私に気を使ってか、それとも自分の物になってしまったからなのか、見せびらかしすぎる表現を使いたくなかったからなのか、彼はEroticではなくSexyと彼女を表現した。

好奇心の強い私は以前から旦那に約束させていた。
彼女を本当に手に入れるのなら、私が初めに一緒に出掛けるわ。
彼女とのデートに誰かが一緒に行くなら、その一番目は私よ!
そこで旦那は今日、私と彼女をランチデートに誘った。

雨の中、仕事を一区切り付けた私が外に出ると、旦那が彼女の待っている角まで連れて行った。
彼の言っていた通り、雨の中で佇む黒い肌の彼女は強くなってきた雨を気にもせず、気品を漂わせていた。
いかにもヨーロッパ大陸の生まれなのが遠目に見るだけでも分かる。
そして私達がランチの為にイタリアンレストランに向かう間に垣間見た彼女は、とてもパワフルでありながらもスムーズで、そして端々に若さを漂わせていた。

我が家の新しい家族である彼女の名前はBMW。
前のオーナーが買って2年も経つか経たないかの内に日本を離れる事になった為に我が家にやって来る事と相成った。
日本で左ハンドルの車を乗り回すのが大嫌いな筈の旦那も、前オーナーが付け替えた様々なオプションの魅力によろめいたか、彼女を愛人(!?)に迎える事にしたらしい。
助手席に乗ってみて、彼女をSexyだのEroticだのと表した彼の気持ちが良くわかった。
ヒーター付きのレザーシートのスムーズさも、軽々とした滑らかなその加速も、いかにもヨーロッパらしい素っ気無いながらもディテールに凝った内装も、黒いボディーに一際と映える、前のオーナーがこだわったのであろうオプションのホイールカバーも、ノーマル仕様では無いミラーの曲線も、全てが調和してうるさくないやんちゃさを醸し出している。
私としては左ハンドルなのだけは気に入らないが、旦那が運転する以上は助手席に座るであろう私は自分が運転している様な妙な安心感があるから、まぁ、いいか。
運転する人なら解るであろうが、自分で運転する人にとっては人の運転は大概怖い物だから。

しかしさ、この車でいくらUnder worldとはいえテクノを聴いていたら、ロンドンの小僧だって(笑)。
そう言ったら旦那は笑っていた。

ところで、この嫉妬深い妻は密かな野望を胸に秘めていたりもする。
いつか彼が彼女に飽きたその頃には、私もこの車を運転してやる(笑)。
だって今日助手席に乗りながら、車の解説をする彼の話を聞いていたら、堪らなく自分で運転したくなったのだもの。
そして今私が乗っている「子供達を乗せられて、小道でもどこにでも入っていける車」ではなくて、「自分が乗りたい車」を買える位に子供達が大きくなったら、私もヨーロッパ生まれのコンバーティブルの「彼氏」を手に入れてやるんだから。
でもね、この所何年もずーっと恋焦がれている、私の欲しい車は何故か旦那と同じイギリス生まれ。
しかも今となっては中々のお年の筈。
周囲の男達に「イギリスの車なんて、車の性能より、車中に木のパネルをくっ付ける方に時間を割いてるんだから」と言われても、それでも一度は乗ってみたいの。

でもさ、今日のドライブのお陰で、もしかしたら2番目に欲しかった旦那の車と同じ国生まれの彼の方が、実は乗り心地が良いかな…等と心揺らめいてしまった雨の日の午後。





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Last updated  Oct 26, 2004 10:01:48 PM



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