014584 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Bird Cage

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Calendar

Profile

Cirou

Cirou

Freepage List

Category

Recent Posts

Aug 8, 2004
XML
カテゴリ:長編小説
[AM10:30]

 休日の朝、目が覚めると時計は既にAM10:30を指していた。

 多佳子は寝起きで乱れた髪を撫でつけ、這いずるようにベッドから降りた。
 生あくびをしながら体を伸ばし、冷蔵庫に向かう。

「・・・なんもないじゃん」

 入れた記憶がないのだから、そこに自分が期待するようなものが入ってるハズはない。

「あーもーだるいなー」

 近頃、やたらと独り言が増えたような気がする。
 長年1人暮らししているとそうなるのか。
 携帯を何となく確認して、メッセージも着信もなにもない事を確認する。
 そして、今日が忌むべき日であることを思い出す。

 生誕30年の記念日。

 ゾッと背筋が凍るような気がした。
 今までごく普通に生きてきたつもりだった。
 けれど多佳子には守るべき家庭もなく、会社での重要な地位もなかった。
 田舎の母がまたジャガイモのような男の見合い写真を持ってくるのかと思うと、多佳子は知らず知らずため息をついていた。
 今日共に誕生日を祝おうと言ってくれた友達にはすでに家庭があった。
 どんなに盛り上がっていても必ず23時には帰ってしまう彼女と、今日だけは一緒にいたくなかった。
 多佳子は虚しさと、この先の人生への不安と、言い知れない恐怖を感じた。
 私はこの先も1人で生きていかなければいけないのだろうか・・・。
 そう思うと恐ろしくて震えそうになった。

 バカね、これからも今までも私は私。

 多佳子はパジャマから近所を出歩ける程度の普段着に着替えた。
 髪を後ろで束ね、Tシャツにラフなカーゴパンツを穿き、財布をポケットに入れた。
 コンタクトレンズを入れるのも面倒だったので、メガネをかけ、サンダルを履いてマンションの外へ出た。
 夏の日差しが眩しく、ますます多佳子の心を暗くした。

[AM11:00]

 コンビニの重い扉を開けると、店内の冷気が多佳子の体を包んだ。
 店内には若いの店員が2人、カウンターの奥で喋っていた。
 多佳子以外の客は、高校生くらいのカップルと中年というには少々年をとっている女性がいるだけだった。

 多佳子は雑誌コーナーに向かった。雑誌、飲み物、食べ物というように回るのが多佳子の癖だった。
 ファッション雑誌を手に取るが、特に何の興味もわかなかった。
 料理雑誌を見ても何かを作ろうという気にはならなかった。
 何を見ても心は空虚なままで、多佳子の心を癒してはくれなかった。

「えーもぉ、やだぁ。それキライ~」

 背後で鼻にかかった女の子がした。さっきチラッと見た高校生カップルだろう。
 2人で並んでお菓子を選んでいる姿を見、多佳子の心は益々沈んだ。

 いいわね、貴方たちにはこの先、たくさんの時間があって。今が幸せで仕方ないんでしょうね。

 多佳子は一刻も早くこのコンビニから去りたくなった。
 飲み物が陳列してある棚に向かい、ダイエット効果を売り文句にしているお茶を手に取った。
 今日は誕生日だし・・・と、ちょっと奮発して手にしたのは有名シェフのハンバーグ弁当。そしてデザートにマンゴープリンを選んだ。
 今日はコメディ映画をたっぷり見て、笑い転げよう。その時に何かつまむものが欲しいと思い、スナック菓子を2種類とチョコレートでコーティングしてあるビスケットを買い物カゴの中にいれる。
 あとは衝動的に、好きなマスコットキャラのおまけが付いたお菓子をカゴに入れてしまった。
 30にもなってこんなもんを買ってるから、男も寄って来ないのよね。
 多佳子は自嘲気味に思いながらレジに向かった。
 背後では相変わらず女の子の甲高い声が聞こえていた。

 多佳子は若い店員が手早く会計をしている手元をぼんやりながめ、財布をあけ、中身を確認した。
「1,637円になります」
 店員の声に、多佳子が財布探っている時。
 その男はやってきたのだ。

 多佳子は最初、自分の身に何が起こったのか分からなかった。
 気がついたら小銭をぶちまけ、フロアーの上に尻餅をついていた。

 痛みに顔を歪めながら見上げると、多佳子の正面に真夏だというのに長袖に長ズボン、野球帽にサングラス更にはマスクまで付けた男が立っていた。
 きっとこの男が多佳子に体当たりして今のような状況を作ったのだろう。
 多佳子は立ち上がり、文句を言おうと口を開いた瞬間。
 男の手で鈍く光っているナイフのような物に気がついた。
 ザーーーッと全身の血が引く音が聞こえた。

「金を出せ」

 男はくぐもった声で店員に向かって刃物を向けた。

-----

 と、いう訳で連載です。
 自分の未来を想像しつつ書いていたら何だか切なくなってきました・・・。
 こんな風に30歳の誕生日を迎える事がないよう、今から努力したいと改めて決意・・・等と、私的な問題は置いておいて。
 ぶっちゃけ、三十路になってやさぐれた女が、いつもどおりコンビニに行ったら強盗に巻き込まれちゃった。てな話です。
 まだまだ序盤で謎な話ですが、あと数回お付き合いくださいませ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  Apr 14, 2012 09:32:06 AM
コメント(0) | コメントを書く
[長編小説] カテゴリの最新記事


Keyword Search

▼キーワード検索

Favorite Blog

閑古鳥の巣箱 小市民伯爵さん
思考遊戯@レッドビ… 紅蜂海老愛好会さん
SLIGHT STIMULATION FLURさん
+++フトウメイ+++ σ(・∀・優也)さん
アムステルダムコー… ザフちゃんさん

Comments

ぷりたん@ 超ラッキー!(* ̄ー ̄) 今まで風イ谷に金出してた俺って超バカスww…
鳥蘭丸@ うにゅぅぅぅぅ…… 可愛がってもらうだけ可愛がってもらって…
霧月詞音@ Re:◆ ヴァン・ヘルシング ◆(09/05) きゃ~、見たいんですよ!!!私。 あと…
霧月詞音@ Re:◇◆◇ はーぶちぃー? ◇◆◇(09/03) はーぶちぃー。 わたくしのおすすめは、…
二ノ宮保菜@ Re:◇◆◇ はーぶちぃー? ◇◆◇(09/03) な…なんだか楽しげなお茶ですね; 飲むの…

© Rakuten Group, Inc.
X