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ゲタさんは精神病院に入院していた
学校へ行く途中 そこを通りかかる時 ゲタさんがそこにいて 私を見ると両手を広げて宙へ高く上げてくれる 母はその精神病院の看護婦をしていた 私はその看護婦の娘だから ゲタさんは私を可愛がってくれたんだろうか 母の職場であったから 精神病院へは何度か足を踏み入れた 騒いで乱暴になる人を 看護婦たちが数人で取り押さえると云うか 独房のような部屋へ押し込められているようなこともあった そこの患者さんのために 時々映画が放映された その時に患者さんと一緒に ディズニーの映画を観ただろうか 「ダンボ」とか。 ゲタさんは重度な患者さんではなかったことは確かで 好きな時間にあのように外へ自由に出て訳だし 私はゲタさんに逢うのが 楽しみだった その病院の裏手からそれほど離れていないところに 深緑の色の水が流れる川が流れる 事件が起きると ボートがどこからともなく出現して 住民総出で探索されたような記憶がある そこの患者さんが多かった その深緑に惹き込まれるのだろう その川の浅瀬では 私が幼少の頃は泳ぐことが許可されてた しかしそれも 私が小学校に上がる頃には衛生上「ダメ」となっていたような 当時、中学生の子たちはちょっと深いところでも泳いでも良いことになっていたが それ以下の子供達は暗黙の安全地帯に留まらなければならなかった いくら浅瀬であっても泳いでいると その川の流れを体に感じ その流れをもっと感じたくなるのだ その流れに身を任せてみたい衝動にかられる 好奇心とも恐怖とも云えない その狭間にある何かを見つけてみたくなる 監視している大人の目をすり抜けて川の強い流れに捕われるその瞬間を待つ その流れに捕まえられそうになった時 やはり恐くなって 大急ぎで安全地帯に戻っていた 思うに 私の人生とは、そうしてそれを少しずつ繰り返して いつしか ついには 川も海も超えて 遠くに来てしまったのだろうかと今フト思った ゲタさんの愛称は 私が付けた 彼の顔が長方形で ゲタのかたちにそっくりだったから 私はゲタさんの行方を知らない 母は覚えているだろうか ゲタさんのこと ゲタさんは私が3才の頃 「高い、高い」をしてくれた 優しいおじさん、なのだ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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