■ 大嫌い。
二つのコップに酒を注ぐのには訳があって、過去の私と未来の私との別れの杯となる意味のはずだった。そんな話を作りながら、水色と薄い緑の、揃いのガラス細工のようなコップに、透明の液体を注いだ。二つを持ってかちん、と互いを鳴らす。これで過去を忘れられたら、それこそ素晴らしい。酔って嫌いだと素直に思うのは、嫌える事は一番楽だからだと思う。嫌って突っぱねる事は楽だ。いやな事に向き合う方が、遥かにつらい。体が重くなり、眼が動かなくなり。やがては内に渦巻く不安の波も感じなくなる。最初に思うのは、全ての事を素直に嫌えること。大嫌いだよと、叫べること。だから、大嫌いという言葉は嫌いじゃない。良い言葉だと思う。孤独や不安という言葉より、なんて健康な言葉なんだろうと思う。二つの杯を飲み干して、瓶を空にした。その時だけは、全てのことが大嫌いだと無邪気に思えた。