ラーメン一本勝負.....
新しいラーメン屋さんができたよ!そういって、旦那が連れてってくれたのは一昨年の年末.... どろりと麺にまとわりつくとんこつスープ。博多ラーメンのようなサラッと系ではなく、「桂花」のような熊本ラーメンでもなく、醤油の効いた和歌山ラーメンとも違っていた。ある意味、野暮ったくとも感じる味はそれまであまり食べたことのないものだった。マスターはどこで修行したわけでなく、独学でラーメンを学び、その味を作ったと聞き、さもありなんと納得。 細麺、ちぢれ、中太の3種類の麺。このスープに負けない麺はとてもコシが強く、イメージとしては韓国冷麺....旦那は中太、子供らは細麺、そしてウチはちぢれを好んだ。家から車で3分とかからないそのお店の存在は家族全員で外食する楽しみに違いなかった。何かの拍子にそのスープの味を思い出しすと無性に食べたくなった。旦那ともどもそういう症状に陥るラーメンだった。そのお店が今月いっぱいで閉店する。オープン当初から、コンスタントに通った馴染みのお店がなくなるのは無性に寂しいし、悲しい。この1年数ヶ月の間、少しずつ変わっていくラーメンを見守っていた。ちょっとスープが軽くなったり、麺のコシが弱くなったり、和風しょう油ができたり、冷やし中華ができたり....この1月のある日、旦那と一緒に行ったら「臨時休業」の紙。原料の調達のため、とあった。今から思うとあの辺が境目だったのかもしれない。やがて、スープが売り切れ御免になって、テーブルからトッピング用のカツオ油が消え、中太麺がなくなり、駐車場の警備のおばちゃんがいなくなり....先月行ったときには見知った従業員の顔がなくなり、今月は食券機に取って代わられてた。オープン当初の味とはちょっと遠くなったラーメンに涙が出そうになった。福島というところは喜多方をきっかけにしてラーメン文化が実に華やか。だけど、実はしょう油が主流。この郡山もラーメンマップがあるくらいラーメン屋さんが多いけど、まともにとんこつを出してるのは数件。とんこつは臭いからダメという人もいるだろう。味が薄くてダメという人もいるだろう。食文化というものはその土地の風土や気候に大きく関係する。たとえば、この郡山。実に甘濃い味付けを好む土地。大分出てから、引越し歴13回のウチはまず、その地元スーパーのお惣菜で土地の味の傾向を読む。そして、土産のお饅頭で再認識する。これをラーメンに置き換えるとこの郡山で旨いと評されるトクちゃんラーメン、ウチからすると甘みが強い。暖簾分けのあの「大勝軒」も甘いつけ麺が売りだし、荻窪ラーメンで名を馳せた「春木屋」分店も郡山テイストに変化させている。ウチが好きな「正月屋」もしょっぱい方ではないし、駅前の「くさび」は飲み明けに食べるにはちょっと....「一本勝負」のマスターが試行錯誤しているのを感じながら、なにも言わないでいたことを少し後悔している。あの最初の味がよかった....あのまま、貫いてほしかった....昨日と同じ原料が手に入るわけでなく、昨日と同じ天気でもない。その日その日の味が勝負となるラーメン稼業は実は酒造りと大きく似ていると思う。仕上がりのブレを少なくしようとツクル方々は努力している。複数のタンクを取り回すのはラーメン屋さんに二つあるズン銅と同じ。ブレンドの技はダブルスープの妙技と同じ。ロックやお湯割り、ストレートと飲み方を工夫するのはラーメンのトッピングや後付スパイスと同じ。マスターに言いたいなぁと思ったことは何度かあったけどお店の味が好きだからこそ、何も言わないで、ただラーメンを食べてた。批評家ぶったラーメンマニアになりたくなかったから....本当に何も言えなかった。「美味しい」の一言もだ。ただ、食べて、「ごちそうさま」でレジを済ます。それでよかったのかどうか、今はわからない。わかっているのはもうすぐあの味が食べられなくなるということだけ。いろいろ考えながら、昨夜は飲んだ。いささか、飲みすぎたようだ....