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March 23, 2010
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カテゴリ:喪失と再生
息子と入院生活を送った病院は、自宅から自転車で約30分のところにある。
今となっては「近い」と思うのだが、当時ははるか彼方に感じた。帰りたいのに帰れない自宅は、別世界のように感じていた。

近づきたくはないし、その病院へと至る道は一人では通れなかった。

実質的に会社と離れて一人で過ごす初日の昨日。
その道の途中にある施設で、退職後にメインでやろうと思っている分野のイベントがあった。興味をもってくれそうな知人を誘ったかれど、あいにく都合が合わず、思い切って一人で出かけてみた。

3連休の最終日。街は親子連れで溢れている。
けれど久しぶりの自転車は爽快で、「ああ、私かなり回復できたな」とこれからの新生活への不安が少し吹き飛んだ。

いよいよ会場に近づいた交差点で信号待ちをしている時、かすかに救急車のサイレンが聞こえてきた。
「どこからだろう」と私が周囲を見渡していると、信号が青に変わり、一緒に信号待ちをしていた人々は意に介せず横断歩道を渡りはじめた。

けれど私は動けない。万が一救急車がこちらの交差点に左折してくるなら、歩行者だって通行の妨げになる。ほんの一瞬のことかもしれないけれど、その一瞬が人の命を左右することもある。
「あの時、ほんの少しでも処置が早ければ、後遺症が残らずに済んだのに」そう思いながら日々を塗り込めたような闇の中で彷徨う人だっているのだ。

立ち止まる私を不審そうに一別する人々が増えた頃、サイレンがいよいよ近づき、その車は姿を現した。救急車じゃない。赤十字の血液運搬車だ。

その車は一瞬減速して歩行者をかき分け、私の目の前の交差点を左折して病院へと向かっていった。

3連休の最終日、しかも夕方。あのようにして血液を運ぶということは、かなりせっぱ詰まった状況なのだろう。
輸血は病院が平常運転をしている平日に行うのだ。緊急事態である場合を除いて。

私は交差点を渡りながら、フラッシュバックに飲み込まれる。
クリーンルームで過ごしたあの土曜日。あの時に、あの研修医がもっと慎重に息子の容態を判断してくれていたら。私がもっと強い口調で輸血を求めていたら、ひょっとしたら腎障害は残らなかったかもしれない。そうしたら毎週病院に通う必要はなく、もっといろいろな所に出かけれたのに。
今、この交差点を楽しげに渡っているこの親子連れ達のように。

あの研修医は、今どこで何をしているのだろう。
いろいろと無神経な人だったから、今私がこんな感情と闘っていることなど、きっと想像も付かないだろう。

仕方のないことだ。
大学を出たての研修医に移植直後の容態なんて、的確に判断できることではない。こちらが命と人生をかけて挑んでいる移植治療だって、医師側にしたら日常茶飯事で、休日なしで働くほどの事態ではないのだろう。
医療チームのシフトだとか、改善可能な点はいろいろとあるのだが、あの組織運営の意識が低い大学病院という組織に、そこまで求めるのは酷な話なのだろう。

けれど人は「仕方ない」ことだからといって、簡単にあきらめられるものではない。私だって普段は日常に巻き込まれて忘れているけれど、ことあるごとにぶり返す。

これはきっと、たとえ私が新たに子供を授かったり、今からチャレンジしようとしている分野で成功を収めたとしても、きっと一生飼い慣らすことのできない感情なのだと思う。

今日は息子の誕生日。生きていれば5歳になる。
けれど5歳になった息子は想像できないし、5年前は自分がこんな人生を送ることになるとは思いもよらなかった。

息子を失ったことも、一生の仕事だと思っていた職を捨てることになったのも、避けようがなかったことだ。「仕方ない」とは思いたくないけれど、そんな人生を歩むことになった私だからこそ、できる何かがあると思う。

それを信じて歩んでいこうと思う。まずはこの1年を。





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Last updated  March 23, 2010 03:10:18 PM
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