臍ノ緒
我が家の電話機は、滅多に鳴らない。何故なら、自宅に電話を引いているにも拘らず、連絡の殆どを携帯電話で済ませてしまうからだ。午後9時23分。我が家の大人しい電話機が珍しく鳴った。こんな時間に誰?恐る恐る電話に出た。「もしもし?お母さんやけど」約一ヶ月ぶりに聞く、母の声。週に一度の割合でメールはしているが、急ぎの用でもない限り、私から電話はしない。親元を離れて暮らしている人は、一体どれくらいの頻度で親と連絡を取り合っているのだろう?「あんたがお母さんの声を聞きたがってると思って、電話してみたんよ」昼間、一人で居る時に、ちょっとした事件に遭い、気が滅入っていた。だから、近々に一週間ぐらい実家で休養をとろうという話をしていた矢先に、母からの電話。何というタイミングだろう。私の臍の緒は、未だに母と繋がっているのかもしれない。そう思った。「元気で居るなら、それで良いんやけど…お母さん、どうしてもあんたのことが気になって、気になって仕方がないんよ。えっ?来週辺り帰ってくるって?やっぱりあんたでもホームシックになることがあるんやね」私でも、ホームシックになることぐらいあります。それを何処か安心したかのように、良かったと嬉しそうに言う母。私達、母子が子離れ、親離れをする日は、まだまだ先のことみたい。いや、一生しないかも。