料理用ラップは軍用だった?(1/2)
どの家庭にも必ずある料理用ラップ。食材の保存や温めなどに欠かせない存在だが、もともと軍用品だったのはご存じだろうか。武器や火薬を湿気から守り、靴の防水にも使われていたラップは、終戦を機に台所で使われるようになった。中身を密閉できるジッパー付き袋も、元来は調理用具として開発されたのだが、あまりに売れ行きが悪く、保存用に名を変えて世に広まっていったのだ。■軍用の防水シートで、お弁当を包む?料理用ラップフィルムの先駆けは、1940年代にアメリカのダウ・ケミカル社によって開発された。当時は太平洋戦争のただ中で、マレー半島やフィリピンのルソン島などで戦闘が繰り広げられていた。戦地に送られた兵士たちは高温/多湿の気候に悩まされ、それを救ったのがラップフィルムだ。おもな使い道は、・銃や火薬を包み、湿気から守る・靴の中敷きにして、水虫を防ぐ・蚊から身を守る蚊帳(かや)蚊帳と聞くと網(あみ)をイメージするが、ラップフィルムをからだに巻き付けるなどしてマラリアから身を守っていたのだろう。1945年に終戦を迎えると、ラップフィルムの需要は減り、ほとんど使い道がない無用の長物となった。ところが、ダウ・ケミカル社の社員たちがピクニックに出かけたときに、台所用品に生まれ変わる事件が起きた。一緒に来た奥方が、お弁当をラップフィルムに包んで持ってきたのだ。これを見た社員たちはさっそく商品化に取り組み、料理用として販売したのだ。ラップフィルムが優秀なのは、素材であるポリ塩化ビニリデン(PVDC)が、開発から50年以上も経った現在も使い続けられているところだ。通称・ポリ袋で知られるポリエチレン(PE)と比較すると、・破けにくさ … (PVDC)470MPa / (PE)220MPa・酸素透過度 … (PVDC)60 / (PE)13,000 ※単位はcc/m2・day・atm・透湿度 … (PVDC)12 / (PE)30 ※単位はg/m2・dayと、難しい単位を抜きに説明すると「引っ張っても破けにくく、酸素も水分もほとんど通さない」の意味で、武器よりも食材にこそ最適な素材なのだ。その後、ヒット商品になったのは説明するまでもないだろう。ちなみに、お弁当をフィルムに包んだ主婦「サラ」と「アン」が製品名の由来となっているのは、フィルムの性能とはまったく関係ない。