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カテゴリ:文化
外出から帰ってきて、一瞬、優雅な気持ちになることがあります。 エレベーターで4階まで昇り、部屋の前に来て、鍵を取り出す。鍵穴のあたりを見やりながら、今日の夕飯について考える。と、目に入る、薄くて細長い物体。ドアノブにかかった、薄くて細長いカード。そう、よく、ホテルなどで使われる "Do Not Disturb" のカード、あれとまったく同じ形状のものが、私たちのアパートのドアノブにかかっていることがあるのです。 「メンテナンスに入りました」 そのカードには、今日の日付とともにこう書かれています。お風呂場のタイルをチェックしました、明日、また続きをやります。こうも書かれています。 「ああ、そうか」 私はようやく納得しました。浴槽とタイルの継ぎ目に貼られたゴム、あれが、取れてしまったから、修理してくれるようアパートの管理事務所にお願いしていたのでした。 あたかも豪華ホテルに滞在しているかのような錯覚、カードを見つけたときの一瞬の錯覚は、もろくも消え去り、あっという間に現実の慎ましやかな生活に引き戻される私なのでした。 家に入ると少しさびしい気持ちがしました。 同居人の自転車道具、同居人の本、同居人の毛布、同居人の靴下などなどが散乱している床を点検し、すべてがもとのままだと確認すると、安心とも阻喪ともつかない気持ちがしました。 うちでは、ときどき、現金の受け渡しがあります。 私が、お金がもうないからください、と申請すると、同居人が銀行からおろして持ってくるというシステムになっているのです。たいてい数百ドル単位です。受渡方法は、手渡しのこともあれば、食卓に置いてあることもあり、はたまた、クリスマスプレゼントに混じって暖炉の前に鎮座していることもあります。 ですから、アパートにメンテナンスが入ったあとは、いつも、少し、どきどきするのでした。 それと同時に、 「居留守を使っているときに入られたのではなくてよかったな」 と安堵もするのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Nov 19, 2004 01:12:42 AM
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