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カテゴリ:映画感想・邦画
2003年公開の日本映画。
原作は第119回直木賞を受賞した車谷長吉の同名小説。 この小説に惚れ込み、5年もの期間構想を練って映画化したのは『ファザーファッカー』の荒戸源次郎。 同じくこの小説に惚れ込み自ら出演を懇願したという寺島しのぶ、そしてこの映画でデビューを飾った大西滝次郎が主演。 大学を出て社会に出たはいいが、人生に絶望とあきらめを感じ兵庫県尼崎に流れ着いた主人公・生島与一。串焼き屋の女主人・勢子ねえさんの下で生活するようになる。 地元民が「尼」と呼ぶこの土地で、どこか疎外感を味わいながらも薄汚いアパートの一室で来る日も来る日も牛の臓物に串を刺し続ける。 そんな生活の中で、彼は綾という女と出会う。彼女と接していくうちに、彼の中で何かが変わっていく。 そして綾の「この世の外へ連れてって」という言葉に誘われて、赤目四十八滝へ死出の旅に出ることになる…。 この映画は2003年度の映画賞を総ナメにした。作品はもとより、この映画で主演を務めた寺島しのぶが、同年公開の『ヴァイブレータ』と共に高く評価された。 最初に言ってしまえば、私としては『ヴァイブレータ』の寺島しのぶの方が良かった。『ヴァイブレータ』の寺島しのぶの方が、よりリアルな肉体性を持って観客に迫ってきた感がある。 『赤目四十八瀧心中未遂』の彼女は、掃き溜めの中の天女のような役柄である。 寺島しのぶは決して物凄く美人な女優ではない。その点から言えば『ヴァイブレータ』の彼女のほうがより切迫感を持った「死」を感じさせてくれた。 とは言ってもこの映画での彼女の演技は評価に値すると思う。 尼崎という魑魅魍魎が蠢くような土地の中で、迦陵頻伽の刺青を背負った彼女が唯一華やいだ鮮烈な雰囲気を醸し出す。 主人公に安らぎを与えつつも、どこか影を背負っており、時折見せる獣のような目つきが綾という人物描写に陰影を与えている。 主人公の生島与一を演じた大西滝次郎も同様に、どこか切迫した獣のような目つきを持った新鮮な演技を見せている。 全てを捨てて尼崎にたどり着いた生島は、常に悲しみをたたえて生きている。 全くの新人である大西滝次郎は大御所の俳優達に囲まれ、尼崎という全く知らない土地にたどり着き疎外感を感じている生島にリアルな存在感を与えている。 正直まだまだ芝居は拙いが、それでも彼がこの映画で精彩を放っているのは、彼自身から発されるオーラだと思う。それをきっと色香と呼ぶのではないだろうか。 愛情か、それとも安らぎが欲しいのか。生島の目は常に何かに怯え、何かに飢えている。 昨今の日本映画やテレビドラマではなかなかお目にかかれなかった、ギラギラした存在感である。 そして彼らを取り巻く尼崎の人々もかなり強烈である。 一応現代劇であるのだが、雑多としていて貧しい空気感はまるで戦後の映画のようだ。 何かに挫折し、何かを諦め流れ着いた人々が地に這いつくばって呻いているこの土地はまるで「あの世」のようである。 生島をこの世界に導き入れる勢子ねえさんを演じるには大楠道代。勢子自身も様々なものを捨て尼崎に流れ着いた人間である。醜い過去を背負い、それでも懸命に生きている勢子を大楠道代は実に魅力的に演じている。 彼女がタバコをスパーッと吸うだけで、スクリーンの中の空気が変わる。そして勢子の生き様が見えてくる。 仕草だけで人物の背景が見えてくる、それが本物の女優ってもんだろう。 刺青師の彫眉を演じるのは内田裕也。この人物に関しては映画の中ではほとんど語られない。だが尼崎の人々に一目置かれている存在であることだけはわかる。 ただならぬ殺気と妖気を身にまとい、この世のものではないような凄みを見せる。 この映画から発される異様な妖気は、彼の存在が大きいと思う。 その他にも新井浩文・大森南朋・沖山秀子・絵沢萌子・内田春菊・麿赤児など、全く無駄がないキャスティングがドス黒い色を添える。 彼ら一人一人の、濁っていながらも鮮烈な芝居がバイタリティを与えており目が放せない。 この世は見てくれだけの美しさに満ちている。しかしこの映画はそんな美しさにドスを突き立てるような醜さに満ちている。「死」が色濃い土地の中で、荒々しく生きている人々の姿はどこか寂しげだ。しかし「生きる」ことに何かもかなぐり捨てて執着している人々は、人間として最も本能的なのかもしれない。 綾と生島はそんな世界から逃げ出そうと死出の旅に出る。赤目四十八瀧はこの世とあの世の狭間を象徴するような、とても幻想的な場所である。 赤目四十八を越えた先には何があるのか。そこは綾と生島が思い描いているようなところなのか。 人間はいろいろなしがらみを背負って生きているが、それらを捨てたらどうなるのか。 そんなことを考えてしまう映画であった。 ★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.05.16 02:00:38
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