女帝
「邪魔をするな! その男は卑劣な方法で父上を殺したのだ。私は父上の仇を討つ。私とあの男の間のことはお前たちには関係ない。無駄な殺生はしたくない。どけ!」「(毒入りの盃を手にしながら)見事な気迫だ。さすがはわしの甥だけのことはある。お前が死なぬ限り、こういう日が来ると思っていた。復讐の一念で死の底からはい上がって来たか。お前の気持ちにほだされて、女たちがお前を生き延びさせたのか。それともどんな策略も無垢な心には敵わぬということか。あるいは・・・兄上、あなたの魂があの世で息子を見守り、私の血であなたの栄光を取り戻すのですか。だとしたら・・・兄上、尊厳はお返ししよう。(毒入りの酒を飲み干す)」キアヌ・リーヴスがエビ反りになって弾丸を避けるシーンで有名な「マトリックス」。 その作品において、銃撃戦のシーンは最終局面を迎えてしまった。本来、発射された弾丸を画面上に映し出すことなど不可能だったにもかかわらず、あえて、拳銃から撃ち放たれた瞬間から弾丸のゆくえをカメラで追うというものだ。「女帝」でも同じ手法が扱われているのだが、言うまでもなく、「マトリックス」と同じアクション監督であるユエン・ウーピンが起用されていた。「女帝」においては、弾丸に代わるものとして射放たれた矢(あるいは槍のようなもの)が画面上に映し出され、そのゆくえを正面から、あるいは側面から鑑賞できるのだ。この作品は、中国、唐王朝が滅びた後の戦乱期が舞台となっている。ある日突然、皇帝が謎の死を遂げる。その後、皇帝を継承したのは亡き皇帝の弟リーであった。リーは、先帝の皇后である類まれなる美貌を備えたワンを己の皇后に即位させ、寵愛する。が、皇后が想いを寄せるのは、先帝の皇太子(歳の近い義理の息子)であり、現皇帝の魔の手から守ろうと必死に策をめぐらす。なぜなら、リー皇帝こそが先帝を暗殺した張本人であったため、先帝の血筋を引く皇太子もいく度となく命の危機に脅かされていたからだ。原案「ハムレット」と謳っているだけあり、舞台をデンマークから中国に置き換えて作られた悲劇の物語である。ワイヤーアクションを駆使して、空を飛び、四方を駆け巡り、時には前転後転をくり返してこだわりぬいた武闘シーンは、正に芸術的だった。さらに、チャン・ツィイーが額に青筋を立てて怒りを露にするシーンなどは、演技への気迫が感じられ、アジアを代表する女優であることが充分理解できる。全体を通して、アクションシーンと映像美を堪能できる一作なのだ。2007年公開【監督】フォン・シャオガン【出演】チャン・ツィイー、ダニエル・ウーまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)