ミスト
「ここは文明社会よ!」「都市が機能していればね。でもひとたび闇の中に置かれ恐怖を抱くと、人は無法状態になる。・・・粗暴で原始的に。」無条件に好きな作品というものがある。巷では様々な評価が飛び交う中、当管理人にとってはお気に入りの一作なのだ。ホラー作家スティーヴン・キングの小説を、ダラボン監督らしい格調高い脚本に仕上げてくれた。この監督は「エルム街の悪夢3」や「ザ・フライ2」などの脚本も手掛け、ホラーとかパニック映画の醍醐味をよくご存知の上、しかも得意とされているのが理解できる。やっぱり映画はこうでなくちゃ。意外性のある結末に喜んでいるわけではない。“絶対的な悲劇”とか“不透明な決断”とか、そういうテーマは正に今風でおもしろいと思ったからだ。嵐の被害は凄まじく、ディヴィッドのアトリエの窓ガラスはなぎ倒された大木のせいで無惨に割れてしまった。翌日、外へ出てみるとボート小屋も倒壊し、湖には濃霧が発生していた。ディヴィッドは息子のビリーをつれてスーパーへと買い物に出かける。すれ違う軍のジープやトラックの多さに不安を覚えながらも、無事に店に到着。だが店内は食料品を買いあさる人々で溢れ返っていた。賛否両論あるところだが、ラストは実にすばらしかった!主人公らは冷静な判断のもとに行動したつもりが、燃料切れで車は立ち往生。いつ得体の知れない怪物に襲われるともしれない。ならば恐怖を味わいながら死んでいくのではなく、いっそのこと一瞬のうちに自害してしまおう、と思う。だがこれほど冷静で正気だと思っている判断さえ、結果として間違っていたというわけだ。4発の銃声が辺りに虚しく響く時、嘆きの鎮魂歌が静かに流れる。(BGMとして)残されたディヴィッドが半狂乱になって車外に出たところ、しだいに霧は晴れ、軍によって救助された市民が次々とトラックの荷台に運ばれていく。この人間界の不条理さ!これぞ正に「平家物語」の冒頭にある“祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり”というものである。鑑賞後はどっぷりとこの悲愴感に暮れ、日ごろは目を背けがちな現実の落とし穴を今一度再確認するのだ。2007年公開【監督】フランク・ダラボン【出演】トーマス・ジェーン、マーシャ・ゲイ・ハーデンまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)