ワルキューレ
「要はヒトラーを失脚させ、敵と休戦交渉に入る。ベルリン到達前のほうが有利だ」「ヒトラーだけでなくヒムラーも殺す。二人とも手に余る狂人だ」「今日の失敗はヒムラーと無関係。政治家が介入するからです。ハッキリしてる。それが原因です。決行の勇気がないのです」本作の主人公シュタウフェンベルク大佐役に扮するのは、トム・クルーズである。トム・クルーズと言えば、アメリカン・ニューシネマスターの次世代に当たる役者層だ。 今どきの若手俳優とは一線を画し、スター然としているのがかえって華やかさと存在感をかもし出す。彼のスゴイところは演技の幅を広げることを厭わず、どんなジャンルの役回りにも体当たりで挑戦を続けて行く姿勢である。80年代の「レインマン」では、名優ダスティン・ホフマンを相手に熱演し、その才能を開花させた。90年代の「ミッション・インポッシブル」シリーズでは、プロデュース業から映画製作まで担当し、映画人としての幅を広げた。しかし、トム・クルーズの立ち位置に共通して見られるのは、いついかなる時も自己を客観的に見つめることのできる冷静さと、誇り高い役者魂である。それは、本作「ワルキューレ」においても垣間見ることが出来るのだ。第二次世界大戦下のドイツ。シュタウフェンベルク大佐は、かねてよりアドルフ・ヒトラー率いるナチスのユダヤ人弾圧や国家政策に嫌悪感を抱いていた。そんな中、北アフリカ戦線で思わぬ重傷を負い、ドイツに帰還。その後、ケガの回復に伴いベルリンの予備軍司令部勤務となる。反ヒトラー活動を推進するオルブリヒト将軍のもとで、国内予備軍参謀長に任命される。 そして、「ワルキューレ作戦」を発動させる。目的はヒトラー暗殺と、ドイツ国家の名誉の回復であった。「ワルキューレ」の見どころは、トム・クルーズが軍人として半ば強引にクーデターを推し進めていく行動力・・・いわば潔さであろう。ヒトラーやその親衛隊を恐れて怖気づく者がいる一方で、変革を求め、己の理想から一歩も引かない強い信念。そういう高潔なキャラクター像を作り上げ、トム・クルーズが全力で演じている。昨年は日本でも政権交代が行なわれ、今年はその真価が問われる年でもある。この「ワルキューレ」を鑑賞して、政治家の方々には行動を起こすことの勇気と決断力をぜひとも学んでいただきたいと思った。重厚感に溢れた、実に見事な作品なのである。2008年(米)、2009年(日)公開【監督】ブライアン・シンガー【出演】トム・クルーズまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。 See you next time !(^^)