イングロリアス・バスターズ
「もし今ネズミが入って来たら敵意ある行動を取るだろ?」「たぶん、そうです」「敵意を持たれるようなことをネズミがしたか?」「人を噛み、病気を蔓延させる」「ペストの原因だったのは昔の話だ。ネズミが広める病気はリスにも菌があるかもしれん。どうだね?」「確かに」「だがリスに対しては敵意は持たないだろ?(中略)ネズミには理由は分からないが嫌悪感を抱いている」タランティーノ監督は今でこそ商業映画監督としてその名を馳せているが、元々はビデオ・ショップの店員で、いわゆる“オタク”的な存在だったようだ。来る日も来る日もビデオソフトをレンタルして、好きな作品に溺れていく。そのうち映画を観る側から作る側へと興味が移り、自己流で映画を学び、脚本を書くなどしてその道を目指すようになったというわけだ。“好きこそ物の上手なれ”とは言ったものだ。正に、タランティーノ監督を体現したようなことわざである。本作は、そんなレンタル・ビデオ世代の申し子とも言える、タランティーノ監督の本領が存分に発揮された作品と言っても過言ではないだろう。ユダヤ人弾圧の衝撃的瞬間や、ナチス・ドイツに対する残酷極まりない報復のシーンまで、戦争の生み出す残虐性が驚くほどドライでリアルに表現されているのだ。1941年、第二次世界大戦中のナチス・ドイツ占領下のフランスが舞台。知人宅の床下に隠れて難を逃れるはずだったユダヤ人のショシャナは、“ユダヤ・ハンター”なるあだ名を持つナチス親衛隊SSのランダ大佐に、自分以外の家族を皆殺しにされる。一方、アメリカの秘密特殊部隊“イングロリアス・バスターズ”と呼ばれるレイン中尉らは、アパッチ族に倣って、ナチス狩りを強行した後、その兵士たちの頭皮を剥ぐという行為を繰り返し、ヒトラーの脅威となっていた。本作でナチス親衛隊SSのランダ大佐役に扮したクリストフ・ヴァルツという役者さんには驚いた。実に憎々しげで、いかにも嫌われ役という雰囲気をかもし出していた。悪役でこれだけインパクトが強いと、ハリウッド・スターであるブラピがどれだけカッコ良く演じていても、完全に呑まれてしまい、影が薄くなってしまった。やっぱりなと納得したのは、このクリストフ・ヴァルツがアカデミー賞助演男優賞を受賞したことだ。さすがに審査員たちの目は節穴ではなかった。吟遊映人が役者の演技に惚れ込むということは最近ではご無沙汰であったが、このクリストフ・ヴァルツには5つ星を進呈したいほどである。実に見事な演技力であった。2009年公開【監督】クエンティン・タランティーノ【出演】ブラッド・ピット、メラニー・ロラン、クリストフ・ヴァルツまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)