しあわせの隠れ場所
「ではなぜミシシッピ大を選んだのですか?」「僕の家族がみんな行ってる大学だから」本作は、最強にして最高のアメフト選手である、マイケル・オアーの実話を基にして制作された映画である。吟遊映人があれこれ感想を述べるのも口幅ったいことだが、鮮やかな感動の波に洗われるような、稀に見るヒューマン・サクセス・ストーリーであった。オリジナル・タイトルである「ザ・ブラインド・サイド」とは、盲点とも死角とも訳せるが、ここではアメフトをプレイするにあたってマイケル・オアーの守備位置のことを表しているのではなかろうか。レフトタックルは、一見、地味な役回りではあるが、実は重要なポジションなのだと示唆しているのかもしれない。マイケル・オアーその人は、今でこそその世界で飛ぶ鳥を落とす勢いのある人物だが、過去は壮絶な体験の繰り返しであった。驚いたのは、彼には出生証明書がないのである。これはつまり、日本でいうところの戸籍事項に、自分の名前がないのと同じことなのだから。彼がどんな思いで運転免許証が欲しいと言ったのか、計り知れないものがある。現に日本でも公的に認められている身分証明と言えば、一般的なもので、運転免許証、パスポート、そして顔写真付き住基カード等なのだ。そんな中、マイケル・オアーは周囲の多大な理解と援助とそして愛情に包まれて、失われた人権と笑顔を取り戻していくのだ。生後すぐに生き別れた父と、薬物中毒の母を持つマイケル・オアーは、知人の計らいで私立のクリスチャン・ハイスクールに入学した。だが、学力は最低レベルで箸にも棒にもかからなかった。真冬の街を半袖姿でとぼとぼと歩いているところを見かけたリー・アンは、自宅へと連れ帰り、ベッド代わりにソファーを提供する。それがきっかけとなり、リー・アンはマイケルの援助を始める。マイケルはそのおかげで少しずつ成績が上がり、アメリカンフットボールチームへと入部するのだった。本作の主人公リー・アンに扮したサンドラ・ブロックは、当然の如くアカデミー賞主演女優賞を受賞している。上流家庭にありがちな鼻持ちならない厭らしさもなく、キビキビとした真っ直ぐな女性を見事に演じている。また、チョイ役には違いないが、家庭教師のスー先生役としてオスカー女優のキャシー・ベイツが出演。スパイスの効いた、しっかりとした脇役としての味付けに成功している。「しあわせの隠れ場所」では、家族の愛情と強い絆がいかに大切か、いかに人間には不可欠なものであるかをテーマとしている。相手を理解し、認めることの難しさはもちろんだが、それなくしては友好は生まれない。 我々はこの作品を観て改めて、多くの人々に支えられているちっぽけな自分の存在に気付くことであろう。2009年(米)、2010年(日)公開【監督】ジョン・リー・ハンコック【出演】サンドラ・ブロック、クィントン・アーロン、キャシー・ベイツまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)