第9地区
【第9地区】「母船でどのぐらいかかる?」「何がだ?」「腕を元に(治すのに)」「予想より時間がかかる」「どのぐらいだ?」「3年だ」我々が映画に求めるものって一体何だろうと考えた時、単純に言えば自分の感性にあった面白さを提供してくれるものと出会いたいからではなかろうか?ここで言う面白さというのは、人によって様々だが、ある人はドキドキハラハラ感であったり、またある人は号泣するほどの感動であったり、身の毛もよだつ恐怖感だったり、とにかくいろいろだ。そんな中、作品一つを取り上げても評価は二分され、他者のレビューにざっと目を通してみると、「ああ、いろんな考え方があるんだな」と今さらのように気付かされる。映画は商品だ。商品である以上、作り手から離れた時点で視聴者にその評価は委ねられる。故・淀川長治氏のことばを引用させていただくと、「観客自身が批評家の目を持つ必要がある」のだ。だが、気をつけなければならないのは、それは決して映画のあら探しになってはいけないということだ。欠点ばかりを取り上げて、評論家気取りになっては成長がないからだ。正直、駄作と呼ばれる映画もたくさんあることは認めよう。だがそんな駄作であっても、必ず長所はある。それを、宝探しのように見つけていこうではないか。さて、本作「第9地区」であるが、久しぶりに斬新な作品とめぐりあえたような気がした。元々映画というのは、過去の作品のパターンを模倣したもの、あるいはそれに色付けして更新を繰り返しているに過ぎないからだ。だが「第9地区」はやってくれた。なにしろストーリー展開が読めないのだから!良い意味で裏切られた感のある作風であった。南アフリカのヨハネスブルク上空に、突如として巨大な宇宙船が出現する。超国家機関MNUが調査したところによると、宇宙船が故障したことにより船内のエイリアンらは弱り果てていた。南ア政府は、難民化したエイリアンたちを第9地区に仮設住宅を作り、ひとまず住まわせることにする。28年後、第9地区は治安が悪化し、スラム化していた。MNUは、エイリアンの強制移住を決定し、立ち退き要請の同意を得るため現場にヴィカスが派遣された。主人公ヴィカス役を演じたのはシャルト・コプリーという役者さんだが、この人物、なんと監督の高校時代の友人なのだそうだ。道理で訊いたことのない役者さんだと思ったはずだ。もちろん、ニール・ブロムカンプ監督も、この作品が世に出るまでは全くの無名で、この「第9地区」が出世作となった。本作を観てつくづく思ったのは、やはり“見た目”というのはどんな倫理的なこじ付けによっても、自分にウソはつけないということだ。地球外生物とは言え、地球人レベルから見て、グロテスクな風貌を持ち合わせていればやはり本音は“気味がワルイ”し、“エビみたい”にも見える。そういうところから差別が生まれ、やがて軽蔑の対象となっていくのかもしれない。人間の誰しもが身に覚えのある、醜いものへの嫌悪感や侮蔑と言ったものを、真っ向から捉えたところに本作の意義はあると思う。「第9地区」を観ることで、斬新な世界観と、キレイゴトではない人間本来の厭らしさを感じ取ることが出来れば、もうそれだけで自分を見つめ直す一歩を踏み出したように思えるのだ。2009年(米)、2010年(日)公開【監督】ニール・ブロムカンプ【出演】シャルト・コプリー