吟遊映人ア・ラ・カルト(2010)
人というのはおもしろいもので、日々、街の喧騒やギスギスした人間関係に疲労困憊していると、にわかに田舎ののんびりした環境にあこがれる。雪をかぶった遠い山並みや、すっかり稲刈りされた田んぼや、白鷺の戯れる河川敷など、なんだか素朴でありのままの自然に囲まれて生き返った心地になるのだ。ところがその一方で、衣類や装飾品、食べる物に至るまで、都会人を気取ってかあるいは単に嗜好のためか、名の知れたブランドにこだわってしまうという一面もある。「田舎は好きだけど、やっぱり街じゃないと・・・」これが本音ではなかろうか。両者どちらが欠けても人としての心の拠り所、文明の進歩は、バランスを崩してしまう。 街は田舎を、田舎は街を、それぞれが互いを意識し、共存していくのが望ましい。大昔のような自給自足、物々交換の時代ならいざ知らず、我々は荒涼とした資本主義経済の中を歩んで行かねばならない。否が応でも、お金を稼ぎ出すことで生活を営んでいかねばならない。今や、我々の生活の保障はお金のあるなしによって左右されるというのが実情なのだから。冷たく硬いアスファルトや、無尽蔵な車の往来、犬も歩けばファーストフード店にあたり、夏は涼風を、冬は陽射しを遮る高層ビルに囲まれて、我々は自分のやり方で生きる道を探って行かねばならない。(無論、全ての人にとって生きることが過酷な環境にあるとは限らないが)そんな中、吟遊映人も含め、どれほどの人々が映画によってつかの間の平安を与えられていることか。映画の中には非日常性が感じられ、娯楽に値する興奮がある。隣りにいる人を気にせず、自分の感性のおもむくまま楽しむことが出来る。つまり、独りを楽しむことが出来るのだ。それは言わば、孤独が孤独ではなくなる瞬間なのだ。世知辛い昨今、人目を意識した趣味や、流行に乗せられることなく、我々はこれまで通り心ゆくまで映画を楽しめる精神を忘れずに持ち続けようではないか。皆様、本年も創作室Yにおける吟遊映人のつたない記事を閲覧いただきまして、本当にありがとうございました。どうぞ、良いお年をお迎え下さい。『どうしてそんなに映画が好きなのですかと聞かれたときの、私の答えは、人を愛し得ることを教えてくれた映画、そう答えるのが一番私には正直な答えかもしれない』(淀川長治のことばより)また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)