50歳の恋愛白書
「(僕は)自制心を失ってた・・・君がとても心配だ」「私は何も感じない。(あなたを)愛してないのかしら? 今朝は愛してたけど」「ショック状態だ」「もうウンザリよ」「何に?」「この状況によ。早く離婚を進めてちょうだい」西欧の作品に色濃く感じるのは、ズバリ、“アイデンティティ”である。自分とは何ぞや? と、突き詰めて行く精神性は、無論、日本にだってちゃんと存在する。だが、西欧の文化と日本のそれが異なるように、やはり“アイデンティティ”の目覚めにも歴然とした違いがあるように感じる。(もっと突っ込んで言えば、その表現の仕方に違いを感じるということ)言うまでもなく、どちらの傾向にも甲乙付けるつもりはさらさらない。本作「50歳の恋愛白書」は、いくつになってからでも恋愛は可能なのだという熟年向けのラブ・ストーリーのようにも見受けられるが、その実、“アイデンティティ”の目覚めを促しているように思える。母と娘というDNAを分かち合う、一番近い同性という存在位置にありながら、反って生まれ出る反発心、虚栄心。たとえ親子であっても、互いが個々の人格を持ち、同一にはなれないのだという基本的自我の目覚め。さらには、自分の存在価値を見出せない時、人は将来に夢や希望を持つことが出来ず、そこにあるのは絶望しかないということ。自分を認めてくれる存在、つまり自分の価値を引き出してくれるパートナーを見つけた時、初めて人は自我に目覚めるのだ。・・・と、吟遊映人のつたない解釈として、そういうテーマをこの作品から感じ取ったのだ。ピッパは、夫である作家のハーブと、大都会マンハッタンからコネチカット州の田舎に移り住むことになった。夫婦の年の差は、なんと30歳。コネチカットの年寄りだらけの田舎町に住むことになったのも、ハーブの体調を考えてのことだった。だが50歳を迎えたばかりのピッパにとっては、退屈な日々で、奔放な過去の記憶を手繰り寄せては自己嫌悪に陥っていた。と言うのも、ピッパは十代の頃に家出をし、ドラッグに溺れて堕ちるところまで堕ちた青春時代を過ごしていた。母親の死に目にも間に合わず、半ば自暴自棄になっていた。そんな中、当時、妻帯者である人気作家のハーブと出逢ったのだ。主人公ピッパ役に扮したのは、ロビン・ライト・ペンで、代表作に「メッセージ・イン・ア・ボトル」や「消されたヘッドライン」「フォレスト・ガンプ」などがある。いくつになっても若々しく、綺麗な女優さんではある。役柄は50歳という設定だが、実際は44歳。とても50歳には見えないわけだ。しかしそれより何より驚いたのは、ピッパより15歳年下(35歳)のクリス役を演じたキアヌ・リーヴスだ!この役者さん、実は46歳とな!!でも充分35歳に見えてしまうからスゴイのなんのって。この役者さんたちを、この年齢の設定で抜擢した監督さんも見事な配役だ。作品そのものより、年齢のことや、役者さんたちの若さの秘訣を探りたくなるような、驚きと羨望の映画だった。2009年(米)、2010年(日)公開【監督】レベッカ・ミラー【出演】ロビン・ライト・ペン、アラン・アーキン、キアヌ・リーヴスまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)