ベスト・キッド
「もう戦わなくていい。十分証明できた」「僕が弱くてすぐあきらめるってことを? 本当のカンフーは違う。“絶望から立ち直るのは自分次第”って言ったよね? (僕が)立ち上がるのに手を貸して!」こういう作品は、青春映画の代表格と言って差し支えないだろう。弱虫で臆病な少年が、自分に自信を持つことで克服してゆく。その自信は人によって様々だが、本作においてはたまたま“カンフー”であっただけのこと。だがその“カンフー”との出合いにより、少年は大きく成長を遂げるのだ。本作でカンフーの師匠役になるのはジャッキー・チェンだが、やっぱりこの人のアクションは本物だ。ここ最近は、アクションに頼らないシリアス・ドラマに傾倒していたジャッキー・チェンだが、本来の持ち味からして、やっぱりアクションあっての役者さんのような気がする。そういう点で、本作「ベスト・キッド」におけるカンフーの師匠という役柄は、ジャッキー・チェンにとって面目躍如たるものであろう。ジャッキー・チェンの代表作に「ドランクモンキー酔拳」「スネーキーモンキー蛇拳」「クレイジーモンキー笑拳」などがあり、香港ではもちろん、日本でも大ヒットを博した。当時のジャッキー・チェンの凄まじい人気を、今の若い人たちは知っているだろうか? 母子家庭に育つドレは、デトロイトから北京へと引っ越す。黒人少年で、しかも北京語の分からない12歳のドレにとっては、戸惑うことばかりであった。公園でバイオリンの練習をしている少女メイと出会い、仲良くしゃべっていたところ、いきなりドレは数人の少年たちからからまれる。カンフーに長けた、少年たちの執拗ないじめを受けたドレは、学校に通うのも億劫になる。ある日、いじめを受け、トドメをさされそうになったドレを助けたのは、アパートの管理人のハン。ドレは強くなりたいと思い、ハンにカンフーの教えを請うのだった。主人公ドレ役に扮するのはジェイデン・スミスで、周知の通り、ジェイデンの父親はウィル・スミスである。吟遊映人が察するに、ウィル・スミス自身が強くなりたいと思って、ブルース・リーあたりに傾倒したのかもしれない。根強い人種差別や、将来的な不安などを抱えた若かりし頃、強い男になって他者を見返してやりたいと、意気込んだ時期があるのではなかろうか。その執念が、息子であるジェイデンに受け継がれるようにして、ウィル・スミス自身は製作者サイドに回り、思いを託したのかもしれない。作中にある(上着を)脱ぎ→落とし→拾い→(ラックに)掛ける、という一連の行為が、カンフーの中に生きるというくだりがすばらしい。日常の何気ない動作が、身を守る防御となり、攻撃の姿勢にもなるという自然主義的発想は、東洋哲学にも似て大変おもしろかった。本作は、青春の苦悩と克服を描いた、力強く爽やかな作品であった。2010年公開【監督】ハラルド・ズワルト【製作】ウィル・スミス他【出演】ジェイデン・スミス、ジャッキー・チェンまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)