エクスペリメント
「一体どうすりゃいい? もう俺はやめる!」「何かを決める時は、全員でのはずだ」「実験終了だ。暴力行為があった!」この作品については、可もなく不可もなくと言ったところだろうか。内容としては、1971年にアメリカのスタンフォード大学で実際に行われた、心理学の実験をもとにした映画であるらしい。〈スタンフォード監獄実験〉だがこの手の作品は、テレビのドキュメンタリー番組などで度々紹介されており、視聴者の大半が結末をご存知なのではなかろうか。そんな中、作品として盛り上げるためには、やはりもっと劇的なストーリー展開を演出しないと、単調になってしまうものなのだ。例えば冒頭で、主人公が失業する。その後、恋をして、彼女といっしょにインド旅行がしたいという夢を見出す。だがお金がない。そこで日当1.000ドルのバイトに手を出してしまう。・・・というまずまずの滑り出しで物語は展開する。しかしこのあたりはもっと手を加え、最大限ドラマチックにしても良かったのではないか。あるいはトラヴィスに扮するエイドリアン・ブロディは、どこまでもポーカー・フェイスだが、実験途中で気違いじみた行動や、半狂乱になってより一層惨めな囚人役を演出しても良かったのではないか。などと勝手に改善点をあげてしまった。恐縮。人件費削減で、老人ホームの仕事を解雇されたトラヴィスは、他にすることもなく、平和運動などに参加し、その日暮らしをしていた。そこで、チャーミングな女性ベイと出会い、会話がはずみ、やがて恋に落ちる。ベイは近々インドに旅行する計画を立てていた。トラヴィスにもいっしょにインドへ行こうと誘うものの、トラヴィスは失業したばかりで金がない。そんな時、トラヴィスは求人広告を見つける。それは14日間の実験で、日当にして1.000ドルという高額報酬であった。内容は24人の被験者たちが、看守役と囚人役に分けられ、模擬刑務所でそれぞれの役割に徹するというものだった。トラヴィスは、恋人とのインド旅行を夢見て、その実験に参加するのを決意する。看守役のバリスに扮したのは、やっぱりこの人、フォレスト・ウィテカーだ。このオスカー俳優については、申し分ない。実験を行う前と後の、驚くべき人格的ギャップを見事に演じ分けている。一見、スーツ姿のまじめで温厚な人物が、ひとたび看守役としての役割を与えられると、冷酷極まりない非情の持ち主として生まれ変わるのだから、見ていて度肝を抜く。このキャラクターは、フォレスト・ウィテカーのために作られたのではないかと疑いたくなるような、完璧なキャスティングだった。この作品は、ひとえに、フォレスト・ウィテカーによって支えられた映画だった。2010年公開【監督】ポール・T・シュアリング【出演】エイドリアン・ブロディ、フォレスト・ウィテカーまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)