レオン
【レオン】「スタンフィールド?」「(ああ)何かご用は?」「(これは)お前への贈り物だ・・・マチルダからの」「・・・チッ!!」(爆発、炎上する)フランス人の感性は、どこか日本人のそれと似たものを感じる。おそらくこの作品が、アメリカ人監督によるものならば、ラストはかなり違っていたのではと思われる。北野武が描くバイオレンスの世界観(たとえばアウトレイジ)も、どうかするとこのリュック・ベッソン監督の感性に近いのではなかろうか。プロの殺し屋とかスナイパーなど、スマートでカッコイイものとして表現してしまうアメリカ映画とはまるで視点が異なり、孤独でしかも文盲のような、教育を受けていない者が、明日食べるパンと牛乳のために就く仕事である・・・的な設定になっているところに、思わずリアリティを感じるのだ。本作は大都会のニューヨークが舞台となっていて、騒々しく猥雑なイメージが付きまとうところなのに、一体どうしたことか、スタイリッシュでクールなムードさえ漂うから不思議だ。舞台はニューヨーク。イタリアレストランのオーナーであるトニーから、殺しの依頼を受けたレオンは、わずかな時間で完璧に仕事をこなすプロの殺し屋だった。レオンは酒を飲まないため、いつも牛乳を2パックも買って帰るのが習慣で、この日も買い物を済ませてアパートに帰った。すると、隣りの部屋の少女マチルダが、一人寂しそうにタバコをふかしていた。見れば顔に虐待の痕跡もある。マチルダは、弟を別として、継母と異母姉、それに実父から疎外され、辛く苦しい日々を送っていた。レオンは同情しつつも、深入りをせず、様子を見ていた。ところがある日、マチルダの家族のところへ、麻薬取締局の捜査員らが踏み込んで来たのだ。吟遊映人は、リュック・ベッソン監督の作品が大好きなので、少し語らせていただく。 この監督の代表作に、「ジャンヌ・ダルク」や「TAXi」シリーズ(TAXi1・TAXi2・TAXi3・TAXi4)、「トランスポーター」シリーズ(トランスポーター1・トランスポーター2・トランスポーター3)などがあるが、どれも優れた映画である。ほとんどがハード・ボイルド・アクションかと思いきや、「ジャンヌ・ダルク」のような歴史大作もあり、あるいはコメディ・タッチの笑いのエッセンスを盛り込んだ作品もあり、変幻自在の演出に脱帽なのだ。本作「レオン」において注目すべきシーンは、2点ある。一つは、レオンがあと一歩のところまで来てスタンフィールドに撃たれてしまうシーンだ。実際に撃たれるところは映像としては映っていない。カメラがレオン本人の視線になり、倒れて目の前の光景が徐々に下がって行くことで、レオンが背後から撃たれたことを視聴者に知らせる。さらに、レオンが虫の息の下で手榴弾のピンを抜き、スタンフィールドを道連れに爆発するのだ。この時のレオンの決死の想いが、視聴者の琴線に触れる。一人残してゆくマチルダを想うと、どうにも悲哀が先行するところだが、スタンフィールドを生かしておけば、やがてはマチルダの命も危険にさらされる。愛する人を守り抜くため、己もろとも爆死する、という場面だ。そしてもう一つ、生き延びたマチルダが施設に戻り、レオンの育てていた観葉植物の鉢植えを、校庭の隅に植えるシーンも素晴らしい。いつまでも根無し草ではなく、ちゃんと大地に根を張って枝葉を茂らせることが、レオンへの鎮魂なのだと表現している。そして、マチルダ自身が、人生と正面から向き合って生きて行こうとする強さを垣間見るのだ。一筋縄ではいかない、生きることの辛辣さを描いた作品であった。1994年(仏)、1995年(日)公開【監督】リュック・ベッソン【出演】ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン、ゲイリー・オールドマン