コラム紹介『重要なのは感想ではない。見たものを伝えることだ』
【西日本新聞 春秋】米紙ニューヨーク・タイムズは名物記者を何人も生んできた。84歳で現役のカメラマンもいる。写真をたくさん載せる人気ファッションコラムなどを50年以上担当している。仕事も私生活も謎めいて語られてきた。 朝、アパートを出るとそこから先の路上がすべて仕事場になる。行き交う人のファッションスナップを撮りまくる。カメラを提げて自転車に乗ってどこにでも行く。 四季を問わずに着ている青い上着と黒い雨がっぱも仕事道具に含まれる。上着は量販店で20ドル程度で購入した作業着だ。雨がっぱは、破れても黒いビニールテープで補修して使っている。 その人、ビル・カニンガムさんは、青い作業着でファッションショーや社交界のパーティーにも行く。パーティー会場では水一杯さえ口にしない。客観的立場を保つためという。求道者を思わせる。 着るものと同様に食べるものなどにも頓着しない。質素なアパート暮らしものぞいたドキュメンタリー映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」が日本でも順次公開されている。製作に10年かかった。うち8年は写真家を被写体にすることに彼自身が同意するための交渉に費やされた。 収められた言葉もシンプルだ。「最高のファッションショーは常にストリートにある」「重要なのは感想ではない。見たものを伝えることだ」。彼の紙面が多くのファンを持ち続ける理由も、そんな言葉のなかにあるのだろう。(5月30日付)~~~~~~~~はじめてニューヨークに行ったとき、五番街を歩きながら「ビル・カニンガムに会ったらどうしよう」と本気で考えていた。一週間の滞在中はマンハッタンをくまなく歩き回った。いつも心の片隅で「ビル・カニンガムに会ったらどうしよう」そう思っていた。残念ながらビル・カニンガムに会うことも、写真を撮られることもなかったが(笑)今思えば我が事ながら笑止千万。誠に持って人様にお話できるものでもないが、ビル・カニンガムの記事に触れ、思わず恥を承知で記した次第。彼のドキュメンタリー映画が上映されている。これは必見だ。このごろのドキュメンタリー映画は、どうも思想的或いは政治的なプロパガンダがプンプンただよい見る気が起きなかったが、久々に見たいという思いにかきたてられた。それにしてさすがはビル・カニンガム。『重要なのは感想ではない。見たものを伝えることだ』行間には、さらに『正確に』のひと言が見えてくる。見たものを正確に伝える。報道やルポルタージュでは最も基本なことであり、それを死守することが記者やライターの矜持であるはずだ。だからこそ、彼らには言論の自由が与えられているというわけだ。ところが『見たものを正確に伝える』という最も大切な事が、どうも忘れ去られているとしか思えない昨今の状況なのである。願わくは、マスコミ関係者は揃って「ビル・カニンガム&ニューヨーク」を見てもらいたい。そして、行間も含めて(笑)『見たものを正確に伝える。』というビル・カニンガムの思いを感じてもらいたい、そう思った。ビル・カニンガム万歳