コラム紹介『秋田魁新報 北斗星』ふたたび岩谷時子さんを偲ぶ
ふたたび岩谷時子さんを偲ぶ【秋田魁新報 北斗星】「大きな空に、梯子(はしご)をかけて、真っ赤な太陽…」。半世紀近くも前に一世を風靡(ふうび)したテレビの青春ドラマ「これが青春だ」の主題歌だ。意外に思われる方もいるだろうが、作詞は「愛の讃歌」の訳詞で知られる岩谷時子さんだ。 「サン・トワ・マミー」「恋のバカンス」「夜明けのうた」「君といつまでも」「いいじゃないの幸せならば」「恋の季節」など、きら星のごとく輝くヒット曲。戦後歌謡史を彩った豪華さに驚かされる。 演歌調の歌やアニメソング、さらには「南太平洋」「エビータ」「レ・ミゼラブル」などヒットミュージカルの訳詞も手掛け、ミュージカル隆盛の一翼を担った。作品のジャンルがバラエティーに富むのも岩谷さんならではか。 二十歳前後から小説や詩を書き、言葉の持つ力を熟知していたのだろう。歌にしろ舞台にしろ、詞が織り成す、おしゃれな岩谷ワールドが多くの人たちの心を捉えてきた。 「芝居好きの少女がそのまま大人になっただけ。詞を書くときは一つのドラマを作っているんです」。かつてこう語っていた岩谷さん。人々は、そのドラマに自分の人生を重ね合わせた。ヒット曲の多さは、こんなところに理由があるのかもしれない。 ここ数年、歌謡や舞台、映画など戦後の芸能界を印象的に彩った人たちが相次いで亡くなっている。今年は田端義夫さん、三国連太郎さんらが逝った。岩谷さんも紛れもなくその一人だった。昭和という時代がまた少し遠ざかっていく。(10月30日)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~身体が震えた。こーちゃんもさることながら「これが青春だ」も岩谷さんの代表作である。しかもこちらは作曲をいずみたくさんが受け持っている。二人は飛ぶ鳥をも落とす「黄金コンビ」であった。恥ずかしながら、10年位前のカラオケ絶世期には二人の楽曲を定番にさせていただいた。飲み屋でほえると(恥、嗚呼)いい塩梅に同輩が現れて「青春ソングパレード」が続いたものだ。蛇足ながら「これが青春だ」のB面がまた素晴らしかった。『貴様と俺』である。もちろん黄金コンビによることは言うまでもない。空に燃えてる でっかい太陽腕にかかえた 貴様と俺だバネもきいてら 血もわくさエイコラ ゴーゴー やっつけろ年がら年中 傷だらけ泥んこ苦業は なんのため勝って帰らにゃ 男じゃないこれだけで一篇の青春小説だ。文藝の香りが漂い格調がある。そしてメロディーはマイナーで、実に完成度の高い楽曲であった。ちなみに飲み屋のカラオケではコチラの方がウケてくれた気がする。昔を懐かしむわけではないが、こんな歌詞をかける人はもういない。「貴様と俺」の歌詞を見て思った。勝って帰らにゃ 男じゃない。かつてはこれこそが男子に限らず我々の目的であった。つまり勝つため、成就をとげるために我々は努力をしてきたはずだ。「楽しんできたいと思います♪」スポーツに限らず、世界大会などに出かかける代表者は一応に口にする。背負うものが時代に濾過され薄く軽くなったということか。なるほど昭和が遠くなるわけだ。後ろ髪を引かれながら、それでも進み続けるのは少しの覚悟がいる。大上段に構える気などはもうとうないが、己の分を守り粛々と進んでいこう、そう思った次第である。あらためて岩谷さんの偉大なる仕事を思い、その大往生に衷心からの合掌を捧げたいと思う。合掌※『追悼、岩谷時子さん』はコチラから