エリジウム
【エリジウム】「娘は死にかけてるの! 白血病の末期なのよ! 私の人生は複雑よ。お願い、手を貸してちょうだい。方法が分からないのよ」「何の方法だい?」「エリジウムへ行くための、、、」「ムリだ。俺にできることなら助けるんだが、、、」格差社会が問題となっているのは、日本だけではないようだ。『エリジウム』を見ると、それが地球規模で起こっていることがよく分かる。一方で、“超富裕層”と呼ばれる上流階級が存在するかたわら、食べる物にも困るような低所得者層が多数を占める社会。そんな一部の富裕層だけが甘い汁を吸う世の中なんて、認めたくはないけれど、現実はそれが事実である。金持ちは子どもに高い教育を受けさせ、卒業後は高学歴を誇り、ホワイトカラーの職種が約束される。貧乏人は子どもにろくな教育も受けさせられないので、職業の選択が狭められ、肉体労働が主となる。その結果、いつまで経っても金持ちは金持ちを産み、貧乏人は貧乏人を産み出すこととなる。負のスパイラルというやつだ。 『エリジウム』では、そんな格差社会を皮肉る内容となっている。監督はニール・ブロムカンプで、代表作の『第9地区』は世界から絶賛された。 ストーリーはこうだ。舞台は2154年の地球。環境破壊の進んだ地球は、人口過密と同時に犯罪と貧困で荒廃していた。一方、超富裕層と呼ばれる上流階級の人々は、そんな地球には住んでおらず、スペース・コロニー“エリジウム”で暮らしていた。マックスは身寄りがなく施設で育ったが、青年となり犯罪に手を染め、辛い刑務所生活を余儀なくされたことで、立ち直ろうと思い立つ。厳しい管理下でマックスは、アーマダイン社の労働者として従事していた。そんなある日、手のケガで病院に出向いたところ、幼なじみのフレイと再会する。フレイは、末期の白血病に罹る娘を育てながら、看護師として働いていた。ある時、マックスは工場での作業中の事故で、致死量の照射線を浴びてしまい、余命5日との宣告を受けてしまう。使い捨て労働者に過ぎないマックスは、会社から解雇され絶望的になるが、一縷の望みを捨てなかった。それは、エリジウムにある先端医療で身体を再生することだった。だがそのためには、エリジウムへと密航する必要があった。エリジウム市民でない限り、地球を出てエリジウムに渡航することは、許されないからである。マックスはなんとしてでもエリジウムへ行くため、密入国組織のリーダーであるスパイダーのもとへと行くのだった。 『第9地区』では見事なアドリブで主役を務めたシャールト・コプリーが、今回はとんでもない凶悪な傭兵役として出演している。この、非人道的で何とも言えないいかがわしさが、上手い具合に演出されていて良かった。主人公のマックスに扮したのはマット・デイモンで、この人もまた並々ならぬ意気込みを持って坊主頭をさらしている。残念だったのは、エリジウムの防衛総責任者役に扮したジョディ・フォスターである。更年期障害みたいに苛立つシーンばかりで、この女優さんの良さが全然引き出されていないではないか!ジョディ・フォスターをもっと魅力的に演出して欲しかった。 作品は、「お金さえあれば、難病や重労働、厳しい監視とは無縁だなんて、そんなのはおかしい!」と言っているような気がする。だが全員が全員、金持ちになるのは絶対不可能なのだから、叶えられない願望にも似て、ちょっと虚しい。ただし、世界レベルで格差社会が問題となっているということは、資本主義体制の限界を皆が一様に感じ始めていることの現れでもあろう。ちょっと考えさせられるSF話題作である。 2013年公開【監督】ニール・ブロムカンプ【出演】マット・デイモン、ジョディ・フォスター