最強のふたり
【最強のふたり】「法務省に務める知人と話したんだが、、、凶悪犯とは言わないけれど、ドリスには前科がある。宝石強盗で半年服役していたよ。有能ならまだしも、仕事も雑だというじゃないか。注意してくれよ。ああいう輩は容赦ないんだ」「そこがいいんだよ。容赦ないところがね。私の今の状態を忘れて、フツーに電話を差し出すのさ。彼は私に同情していないんだよ。彼の素性や過去など、今の私にはどうでもいいことさ」現在、福祉に携わる仕事をしている人、あるいは今後そういう仕事に就くことを考えている人は必見だ。もちろん、見方によってはキレイゴトを描いているようにも感じられるかもしれない。だが、介護する側、される側の様々な問題に、一石を投じた作品に仕上げられている。フランス映画なのだが、本国はもちろん、日本においても大ヒット作となったらしい。(ウィキペディア参照)この手のヒューマンドラマは、どうかすると暗くて重いテーマになりがちである。そこはフランス映画、さすがだと思うのは、身障者とか貧しい移民の黒人青年を取り上げているのに、とてもユーモラスでそれでいて核心に迫る内容となっているからだ。 ストーリーはこうだ。パリ在住の大富豪フィリップは、脊髄損傷で車イス生活を送っていた。フィリップに付き添う介護士を雇用するため、面接を行ったところ、スラム出身の黒人青年ドリスに興味を持ち、採用した。フィリップは同情と憐れみのお仕着せの介護にうんざりしていた。ところがドリスは、陽気で明るく、しかもフィリップに対してホンネで付き合うのだった。とはいえ、出自の全く異なる二人は何もかもが対極にあった。クラシックやオペラを好むフィリップに対し、ソウルやダンスミュージックが好きなドリス。詩的な話題を好むフィリップに対し、明け透けな話が好きなドリス。いつも高級ブランドのスーツに身を包むフィリップに対し、ラフでカジュアルな服装のドリス。二人にとって、毎日が新鮮でアクティヴなものに変わっていった。そんなある日、就寝中にフィリップが発作を起こした。ドリスはフィリップを落ち着かせるために、眠いのを我慢し、街へつれ出し、何時間も付き合った。ドリスは介護士としてではなく、人間本来の優しさと思いやりがあったのだ。 いろんな見方があって当然だと思うが、私はこの作品をフランスが手掛けたということに意義があるような気がした。フランスの抱えている移民を始めとし、失業や差別という問題は、今や切実なものとなっている。「共存」とか「共生」という言葉が頻繁に使われるようになって久しいが、なかなかどうしてそうすんなりとはいくはずもない。原因がすべて貧困にあるとは言わないが、この作品を見ると、富む者の持つ教養や知性が貧しい青年に良い影響を与えているのがよく分かる。つまり、富む者と貧しい者とが歩み寄り、バランスを取ることが必要なのだ。それを単に「格差社会」と糾弾したところで何も生み出さないからだ。 ドリス役に扮したのはコメディアンのオマール・シー。ガハガハと屈託なく笑うシーンは、演技を超えた爽快ささえ感じさせてくれる。(オマール・シーはセザール賞で主演男優賞を受賞している。)おすすめの話題作だ。 2011年(仏)、2012年(日)公開【監督】エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ【出演】フランソワ・クリュゼ、オマール・シー