読書案内No.160 加東大介/南の島に雪が降る パラオの戦場で、演じた芝居に兵士たちが涙する
【加東大介/南の島に雪が降る】◆パラオの戦場で、演じた芝居に兵士たちが涙する今年は戦後70年という節目の年だ。4月9日には、両陛下が激戦地となったパラオを訪れ、戦没者のご供養をされた。年々、戦時下でのご苦労をお話されるご高齢者の方々もお亡くなりになり、すでに戦争は歴史の一部として過去のこととなりつつある。そんな中、加東大介の『南の島に雪が降る』が、ちくま文庫から再版されたのはとても嬉しい!以前、母が持っていたものだが、引っ越しの時に紛失してしまったため、何とかして手に入れたいと思い、このたびやっと念願が叶った。 著者の加東大介は役者で、初期の頃は市川莚司を名乗っていた。姉に女優の沢村貞子、甥に長門裕之、津川雅彦らがいて、正真正銘の役者一門である。『南の島に雪が降る』は、いわゆる戦争体験記である。イメージとしては、何やらドンパチやって命からがら生き残った半生記のように思い描くところだが、そうではない。著者が衛生兵として召集され、送られた戦地が西ニューギニアのマノクワリ地方だったので、大きな戦闘はなかったのである。そのおかげで、加東大介らが演芸分隊を組織し、死にゆく兵士らにつかの間の娯楽を提供することができたのだ。 あらすじはこうだ。前進座の役者だった著者(本名・加藤)は、召集令状が届いたので出征した。送られたのは、西ニューギニアのマノクワリ地方だった。加藤が与えられた使命は、これから死にゆく兵士たちを激励し、鼓舞するための劇団づくりであった。少ない物資で衣装をつくり、背景をつくり、小道具を用意した。演芸分隊は一日の休みもなく、フル稼働し、来る日も来る日も観覧を心待ちにする部隊のために、舞台に立ち続けた。ある時、演芸分隊の活動を支え続ける上官の、杉山大尉が言った。「娯楽じゃない。生活なんだよ。きみたちの芝居が生きるためのカレンダーになってるんだ。演分は全支隊の呼吸のペースメーカーだぜ。そのつもりでがんばるんだ」加藤は改めて演劇をやり続けることに誇りを持った。 春風亭柳昇の著書である『与太郎戦記』などにも通じるものがあるが、非日常下に置かれたつかの間の安らぎ、充足感を語るものかもしれない。敵の銃弾に絶命する以前に、飢えとマラリアでバタバタと倒れていく同胞を目の当たりにした時、一体、人の命なんて、なんと儚いものなのかと思わずにはいられない。そんな中、パラオの舞台に降らせた雪に、日本の家族に想いを馳せたであろう兵士らの望郷の念を想像すると、胸がはちきれんばかりに苦しくなる。 この体験談を読むことで、それぞれに感じることがあるだろう。その思いを心の片隅に残し、戦後70年の節目の年に、改めて平和を祈願しようではないか。『南の島に雪が降る』は、必読の書である。 『南の島に雪が降る』加東大介・著☆次回(読書案内No.161)は未定です、こうご期待♪★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから