ザ・ダイバー
【ザ・ダイバー】「だらしないぞ、12歩も歩けんのか?! ネイビー・ダイバーは救助のプロだ。水中を捜索し、沈んだ物を引き上げ、障害物を取り除くんだ。若くして海で死ぬしか英雄にはなれん! なりたがる奴の気が知れん!」この春フレッシュマンとして社会にはばたく若者たちにお勧めできる作品がないものかと、あれやこれやと物色してみた。すでに15年も前の作品だが、『ザ・ダイバー』は誇り高きアメリカ海軍潜水士の伝記である。これはフレッシュマンに勇気と希望の光を射し込んでくれるものだと思う。実在の人物、アフリカ系黒人として初めて“マスターダイバー”の称号を得た潜水士、カール・ブラシア(1931~2006年)半生を描いた作品なのだ。(ウィキペディア参照) 簡単なあらすじをご紹介しよう。1943年、ケンタッキー州ソノラにおいて、黒人少年カールは小作人の子として育っていた。父は広大な農地を来る日も来る日も耕し続けるが、あくまで雇われの身なので、自分の土地は持っていない。貧しい我が身の二の舞を息子にはさせたくないと、息子カールには村を出るよう激励する。カールは父の、「二度と(貧しい)村へは戻るな」のことばを胸に刻み、海軍へ入隊することにした。ところが海軍でカールを待ち受けていたのは、それほど生易しいものではなかった。黒人兵士に許されるのは、食事を作るコック係だけ、という差別だった。カールは得意の水泳を活かしたダイバーを希望していただけに、厳しい現実に直面した。だがカールは逆境をバネに、ダイバーになろうと必死に努力し、上司へアピールを続けるのだった。 この作品の見どころは、やはり主人公カールが、どんなに辛いめに合ってもめげない強さであろう。人種差別が公然と行われていた時代のことであるから、今ではちょっと想像もできないような過酷な環境だったと思う。そんな中、「なにくそ!」とか「負けるもんか!」という、それこそ歯を食いしばって艱難辛苦を乗り越え、勝ち得たものだったに違いない。作品の後半では、勤務中の不慮の事故により足に大ケガを負ってしまう。さらには、その足を切断し、リハビリによってダイバーの仕事に復職するまでのプロセスが描かれているのだが、それはもう血の滲むような努力であった。私には決してマネのできないチャレンジ精神にあふれていて、その生き様は常に前向きだ。 それを見事に表現したのは、キューバ・グッディング・jr である。養成所での鬼教官役にロバート・デ・ニーロだが、この役者さんも言わずもがなの演技力。さらにその鬼教官の妻役としてシャーリーズ・セロンが扮しているのだが、これまたスゴイ。南ア出身の女優さんで、父親がアル中という背景を持っているせいか、ロバート・デ・ニーロ扮するサンデー教官がアル中で癇癪持ちで家庭を顧みない夫に、どうしようもない絶望感とあきらめを抱く妻、という役柄を見事に演じ切っていた。(演技というよりリアリティに近いものがあった。) 作品の内容には関係のないことだが、邦題である『ザ・ダイバー』というタイトルはどうにかならないのだろうか?原題は『Men of Honor』なのだが、もっとドラマチックなタイトルはなかったのだろうか?『風とともに去りぬ』とか『バルカン超特急』のように、インパクトのある邦題をつけて欲しかった、、、 それはさておき、立ちはだかる難題にもめげず、努力と勇気を持って困難を克服していく姿は感動的だ。アメリカ海軍初の黒人ダイバーの半生を、じっくりと堪能していただきたい。お勧めの逸作である。 2000年(米)、2001年(日)公開【監督】ジョージ・ティルマン・ジュニア【出演】ロバート・デ・ニーロ、キューバ・グッディング・ジュニア