横山光輝「三国志」第八巻
【横山光輝「三国志」第八巻】「あなたのそばには“人”がおらぬ。世に隠れ伏している龍、伏龍、いまだ大空に飛び立たぬ鳳、鳳雛。いずれかその一人を得れば、天下はあなたの心のままになるでしょう。」ごくごく当たり前のことだが、出会いというものはある意味、人一人の運命さえ変えることもある。その出会いが吉と出れば運が開けるし、凶と出ればそこで終わる。人は偶然の出会いを意外にも軽く考えすぎる。国立大学の理系学生が、たまたま出会ったオウム信者の勧誘を受け、麻原の教えを信じ込み、サリン製造に手を染めてゆく。そんな極端な出会いは少数派だとしても、ちょっとした出会いなんて、巷にはいくらでも転がっているのだ。ほとんどがつまらない、むしろ出会わなければ良かったと後悔の念を抱いてしまうような相手かもしれない。しかし中には、びっくりするような出会いが、人生には一度ぐらいあるものなのだ。 三国志第八巻ではたまたま劉備が、老いた学者の端くれだと謙遜する水鏡先生と出会うことで、アドバイスを授かる。というのも、劉備は己のふがいなさにホトホト嫌気がさし、ついつい弱気になってしまったのだ。それを知った水鏡先生が、軍師の必要性を説き、劉備に足りない人材についてヒントを与えるのだ。 我々は生きていく上で、様々な出会いの機会に遭遇するだろう。ほとんどが取るに足らない、通りすがりの出会いかもしれない。だがその出会いの質をしっかりと見極め、人生を良い方へと転じてゆきたいものだ。 さて、第八巻は次の4話がおさめられている。 第29話 玄徳軍・大結集第30話 官渡の戦い第31話 凶馬決死の渡河第32話 浪士・単福 あらすじはこうだ。袁紹は七十万の大軍を起こして曹操討伐を決起した。都である許昌を攻めるべく、官渡に向かって出発した。一方、対する曹操軍は七万の精鋭を率いて袁紹軍を迎え討とうとしていた。兵士の数だけで言えば、袁紹軍七十万の大軍に対し、曹操軍は七万。袁紹軍の十分の一でしかなかった。しかし袁紹は器量の狭い男で、部下の諫言に耳を傾けようとしなかった。持久戦を主張した参謀に腹を立て、軍の士気を乱した罰だと、首を討たせようとした。食糧の乏しい曹操軍にとっては、何としても持久戦には持ち込みたくなかっただけに、袁紹の無能さにほくそ笑んだ。戦いは短期決戦で勝負がついた。官渡の戦では、曹操に天が味方したのだった。一方、そのころ劉備玄徳は、ひょんなことから水鏡先生と出会った。本名は司馬徽と言ったが、周囲からは水鏡先生と呼ばれ、慕われているらしかった。ただびととは思えない風貌と物腰に、思わず劉備はうだつのあがらない我が身を嘆き、弱音を吐いた。すると水鏡先生は劉備に、兵士らを使いこなす人材が足りないことを指摘した。そしてさらに、伏龍、鳳雛の2人のうちどちらか一人でも得られた日には、天下は安らかになると説いた。劉備はこの助言をたいへん喜んでよく聞いた。こうして劉備は、山野に隠れた賢人を求めることを決意する。 玄徳が水鏡先生と出会ったことで、運命が転じていくことがよく分かる。第32話では、謎の浪士・単福と出会うことで、いよいよ三国志はおもしろくなっていくのだ。玄徳は最初、この単福という人物を伏龍と呼ばれる天才軍師と間違えるのだが、なかなかどうしてこの単福の兵法も見事なもので、敵の大軍をさんざんに打ち負かしてしまうほどの計略家であった。 第八巻のキーワードは、ズバリ、“出会い”である。玄徳が出会う好人物たちを、じっくり観察して頂きたい。 【発売】2003年【監督】奥田誠治ほか【声の出演】中村大樹、辻親八、藤原啓治※ご参考横山光輝「三国志」の第一巻はコチラ第二巻はコチラ第三巻はコチラ第四巻はコチラ第五巻はコチラ第六巻はコチラ第七巻はコチラ