死霊館
【死霊館】『悪の力は御しがたい。悪魔と神は存在する。どちらに従うか・・・人間の行く末は我々の選択にかかっている。』---エド・ウォーレン---ここのところ日中は30度越えする日も続き、いよいよ夏が来たかという実感に浸っている。だからというわけでもないけれど、冷房のない我が家では、涼を求めてホラー作品を見るのが毎年の恒例なのだ。ふらりと出かけたTSUTAYAのホラーコーナーで目に留まったのは、『死霊館』である。何やらタイトルだけはおどろおどろしいけれど、ある意味スタンダード・ホラー(!?)でなかなか良いじゃないのと勝手に判断し、レンタルしてみた。私がホラーを見るときのスタイルは、必ず夜であること、あったかいインスタントコーヒー、それにポップコーンを準備しておく。言うまでもなく、トイレは見る前に済ませておく。劇場で見るのとほぼ同じルーティーンである。そんな中、今回の私はいつもとは明らかに違った。何が?!ポップコーンが全然減らない!たいていは作品の前半が過ぎたぐらいで一袋食べ終えてしまうのに・・・ポップコーンを口にするのを忘れるほど、恐怖の戦慄に震えたのである!! いや、びっくりした。何という恐怖!!これまで見て来たゾンビシリーズや怨霊モノは、子どもダマしに過ぎなかったのだ。『死霊館』の恐怖は本物である。不思議なのは、決して残虐なシーンはなく、グロテスクな描写もないのにこの恐怖感。一体なぜこの恐怖が生まれて来るのか?!ただ一つ言えるのは、この作品が1971年アメリカ・ロードアイランド州で起きた実話を基に製作された作品であるということだ。ストーリーは次のとおり。舞台は1971年アメリカ・ロードアイランド州ハリスヴィル。ペロン夫妻とその子どもたち5人が引っ越して来た。田舎の中古物件だが念願のマイホームである。古くてリフォームを要する屋敷だが、格安で手に入れた。だが入居当日から不思議なことが起きる。愛犬のセイディーが決して屋敷の中に入ろうとしない。まるで何かにおびえているようなのだ。(その翌朝、セイディーは謎の死を遂げる。)さらには鳥が屋敷の壁面に次々とぶつかり、首の骨を折って死んでゆく。また就寝中、三女のクリスティーンの足を、得体の知れない何かによって引っ張られ、眠りを妨げられる。ペロン夫人の体中に原因の分からない青アザができる。屋敷じゅうから物音がしたり、死臭のニオイがたちこめるなど、様々な怪現象に一家は苦悩する。いよいよ一家に命の危機が及ぶに至り、ペロン夫人は超常現象研究家として名高いウォーレン夫妻に助けを求める。ウォーレン夫妻はペロン一家の深刻な状況にがく然としながらも、邪悪な霊力に真っ向から挑むのだった。西洋人が心の底から恐怖するゾンビなど、日本人にとってはあまり恐怖の対象とはなりにくい。文化の違いとも言えるが、現実からほど遠い気がするからだ。一方、正体不明の悪霊などは、西洋人のみならず日本人にも多大な恐怖を植え付ける。日本にも昔から怨霊伝説などがあって、得体の知れない邪悪なものに対する恐怖心は、世界でも有数であろう。極めつけはラストだ。エンドロールが流れる直前には、実在のペロン一家の写真、それにウォーレン一家の写真が映し出される。それは白黒写真で、時代を感じさせ、決して作り話などではないという証拠として披露されるものだ。ジェームズ・ワン監督は中国系アメリカ人で、東洋人ならではの感性がそこかしこに生かされ、恐怖の持続を効果的なものにさせている。『死霊館』がそんじょそこらのB級ホラーと違うのは、出演している子役たちのチャーミングなことだ。とても演技とは思えない素朴で自然なセリフの言い回し。視聴者は、コワいコワいと思いながらも登場人物と一体化して、どんどん引き込まれてしまうのだ。アメリカでは超常現象研究家として有名なウォーレン夫妻が、何万件と調査して来た中で、「最も邪悪で恐ろしい事例」として封印してきた体験談。(ウィキペディア参照)それを基に製作されたのがこの『死霊館』なので、身の毛もよだつホラー作品が好きだという方々におすすめしたい。(なのでくれぐれも心臓の弱い方は付き合いでも見ない方が良いかもしれない・・・)私にとって、これまで見て来たどのホラー作品よりも恐怖を感じた逸作であった。 2013年公開【監督】ジェームズ・ワン【出演】ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、リリ・テイラー