ザ・ウォーク
【ザ・ウォーク】「見ろよ! 僕らは世界に証明したんだ。何事もやってやれないことはないんだと」「タワーが違って見えるな」「うん、たしかに。君があの上を渡ったからだよ」「今やNY市民はみんなタワーのファンだよ」私は高い所がそれほど好きではない。しっかりとした建物の最上階から下界を眺めたりするのは問題ないけれど、一歩間違えたら崖の下へ真っ逆さまみたいな場所はご免被る。『ザ・ウォーク』は、そんな私にとってDVDで見るぐらいがちょうど良かった。他の人のレビューでよく見かけたのが、「劇場でしかも3Dで見た方が良い」との意見だが、そんなリアルを味わったら気持ち悪くなりそうだ。(DVDで見ているだけでも度々めまいに襲われ、ヘトヘトになってしまったぐらいだし。) 『ザ・ウォーク』はフランスの大道芸人フィリップ・プティの実話に基づいた作品である。1970年代、ニューヨークに建造されようとしていたワールド・トレード・センターの北棟と南棟にワイヤーを張り、綱渡りのチャレンジをしたフランス人の物語だ。冷静に見たら、そんな無謀で非合法な挑戦を芸術とか美学などととても言えたものじゃない。だが見ているうちに段々とマヒして来るのか、時間を追うごとに、そんな無茶な綱渡りに成功して欲しいと願うようになるのだから不思議だ。 ストーリーは次のとおり。フランスの大道芸人フィリップ・プティは、小さいころからサーカスの綱渡りショーを見るのが大好きで、自分も実際にやってみたくなり、よくマネをして遊んでいた。ろくに勉強もせず、サーカスのマネゴトばかりしていたせいで十代の半ばに父親から勘当され、それからはフランスじゅうを放浪しながら芸を磨いた。あるとき、新聞でニューヨークに建造されようとしていた2棟のワールド・トレード・センタービルを見てひらめいた。このマンハッタンにそびえ立つ2棟の高層ビルにワイヤーを張って、命綱なしで渡ってみたいと。フィリップはそのためにすぐさま協力してくれる仲間集めを始めた。時間は限られている。ワールド・トレード・センターが完成する前に決行しなくてはならない。念入りに計画を立てねば、1ミリのミスも許されない。1974年、いよいよフィリップは渡米するのだった。 主人公フィリップ・プティに扮したのはジョセフ・ゴードン=レヴィットだが、正に熱演だった。フランス人らしくちょっぴり生意気でスマートな身のこなしは、実在のフィリップ以上にフィリップらしく感じさせるものがある。メガホンを取ったのはロバート・ゼメキス監督で、代表作に『フォレスト・ガンプ』や『キャスト・アウェイ』『コンタクト』などがある。この監督が手掛ける作品に共通するのは、とにかく「時間との闘い」である。限りある時間を最大限のところまで有効活用し、目的に向かってひたすら突っ走る。後戻りはできない人生を映像の世界で表現しているような気さえする。今はすでに跡形もないワールド・トレード・センタービルだが、この作品を見ると、ゼメキス監督が得意とする過去と現在と未来の往来を果たしたような錯覚に陥る。カテゴリとしては【伝記】に分類したが、【SF】にも通じる世界観を垣間見るのである。 2015年(米)、2016年(日)公開【監督】ロバート・ゼメキス【出演】ジョゼフ・ゴードン=レヴィット