テルマエ・ロマエ
【テルマエ・ロマエ】「ローマ帝国のためだと思って、テルマエを作ってもらいたい」「私にお任せ下さい!」《笑う門には福来る》とは言ったものだ。年明け早々、辛気臭い顔をしていたらせっかくの福徳も逃げてしまうに違いない。何か愉快な作品でも見て、笑顔で新春を迎えたい。とはいえ、なかなかゲラゲラ笑える作品というものはありそうでないものだ。そんな中、少し前の作品だが『テルマエ・ロマエ』を見た。すでに6年も前に公開されたものだが、当時はコメディというジャンルにあまり触手が動かずスルーしてしまった。今さらという気がしないでもないが、今の私は笑いに渇望しているので、背に腹は代えられない。事前の予習としてウィキペディアをのぞいてみると、ローマ人よりローマ人らしい「日本人屈指の濃い顔」として、キャスティングを評してあった。その顔ぶれたるや、阿部寛を筆頭に市村正親、北村一輝、宍戸開、それに竹内力、うん納得だ。『テルマエ・ロマエ』のストーリーはこうだ。舞台は西暦130年代の古代ローマ。浴場設計技師のルシウスは、自分の型にはまった設計案が採用されず、苦悩していた。気を紛らわそうと公衆浴場へ出向いたところ、そこはバカ騒ぎの場となっていて、心を落ち着かせるどころではなかった。思わず、その喧噪から逃れるように湯舟に身を沈めると、浴槽の壁の一角に穴が開いているのを見つけ、近づいたところ、足を取られて吸い込まれてしまう。やっとの思いで水面に顔を出すと、そこには「平たい顔」の民族がくつろぐ、見たこともない様式の公衆浴場にタイムスリップしていた。ルシウスは「平たい顔族」(現代の日本人)の文明の高さに驚き、目を見張った。壁面に描かれた見事なイタリア・ベスビオ山らしき絵(実際には富士山の絵)。脱衣場に設置された扇風機、衣類を入れておくカゴ、それにくつろぐための椅子。すべてがすべて、ローマ帝国より勝る文明だった。さらには、のぼせて気を失ったルシウスに平たい顔族の一人が親切にもフルーツ牛乳をふるまってくれたのだが、その美味なる喉越しの良さに感動を覚えるのだった。ルシウスはこれを機に、古代ローマと現代日本を行き来し、平たい顔族の銭湯で得たアイディアをローマでの浴場設計に活かすのであった。『テルマエ・ロマエ』はもともと「コミック・ビーム」というマンガ雑誌に連載された作品が原作となっており、作者はヤマザキマリで、その夫はなんとイタリア人とのこと。当初は単行本が5000部ぐらい売れたら御の字だと思っていたところ、50万部も売れる大ヒット作となり、戸惑いを隠せなかったらしい。(ウィキペディア参照)監督は武内英樹で、テレビ・ドラマの演出などを数多く手がけ、高視聴率をたたき出した人物である。代表作に『のだめカンタービレ』などがある。 『テルマエ・ロマエ』のおもしろいのは、「平たい顔族」と呼ばれている我々日本人の、日常に紛れた何気ない道具や行為を、高度な文明と文化として紹介している点であろう。主人公ルシウスに扮する阿部寛が、その一つ一つに驚きを隠せず、ショックと感動の連続で物語は展開してゆく。ケガや病気の治療として温泉に浸かる湯治の効果や、地熱を利用した腰痛緩和や疲労回復は、海外向けの観光PRにもなっており、旅行会社や温泉組合から絶大な支持を受けたという理由がよくわかる。内容は至ってバカバカしいのに、それがちゃんとコメディとして耐えられるおもしろさなのだから、そうとうな完成度の高さである。ロケ先は伊豆の熱川バナナワニ園だったり、河津温泉郷だったり、伊豆箱根国立公園だったりで、私にとっては懐かしい故郷が映し出されていて、それだけで大満足だった。笑うことは体にも良いことなので、この作品を見て皆さんにもゲラゲラと笑ってもらいたい。体内に溜まった邪気を、笑いで吹き飛ばし、今年一年も明るく楽しく過ごしましょう! ※テルマエ・ロマエ=ローマの公衆浴場の意。 2012年公開 【監督】武内英樹【出演】阿部寛、上戸彩、市村正親