読書案内No.195 眉村卓/妻に捧げた1778話 妻の亡くなるその日まで毎日一篇のお話を書き続けた男
【眉村卓/妻に捧げた1778話】残暑お見舞い申し上げます。しばらくブログの更新が滞っていました。とくに多忙を極めていたわけでもなく、ごくごく日常をすごしていただけなのに、何か物事を継続するというのは大変難しい。根気と努力が物を言う哲学のような気もする。一週間に一冊本を読もう、一週間に一回DVDを鑑賞しよう、一週間に一度ウォーキングをしよう。何度となく自分に課して来た目標なのに、それが今日まで継続できたためしはない。ましてや毎日ショートショートを1本ずつ書くという気の遠くなるような継続は、たとえ作家と言えども容易なことではなかったであろう。 私は眉村卓の『妻に捧げた1778話』を読んだ。この作品はテレビのバラエティー番組『アメトーーク!』の“読書芸人”という企画において取り上げられ、ベストセラーとなっている。発売されたのはすでに2004年なので、10年以上も経って再燃しているのだ。(テレビの影響力というのはスゴイものである。) 内容は、末期ガンを宣告された妻のために、1日1話ショートショートを書いた中の19話が抜粋され、エッセイとともに掲載されている。眉村卓は大阪市西成区出身で、大阪大学経済学部卒である。もともとはサラリーマンとして働きながらSF同人誌に参加していたようだ。代表作に『ねらわれた学園』『なぞの転校生』などがある。2011年には実話をもとにした映画『僕と妻の1778の物語』が公開されている。(ウェキペディア参照) 内容もさることながら、何がスゴイかと言えば、1997年に妻のガン宣告を受けてから亡くなる2002年5月28日遺体が戻った自宅で最終回を書くまで、一日たりとも途切れることなく書き続けたという事実である。この継続力は見事な哲学と言っても過言ではあるまい。某インタビュー記事を読むと、「1日1話を始めたのはなぜか」という質問に対し、次のように答えている。 「家内のために、ほかにできることがなかったからです。(中略)看病するにしても、素人ができることはそんなにありません」 作家として分をわきまえたこの物言いに感銘を受けた。読書好きの妻のために「にやりと笑える話」を日々書き続けるという精神力と根気強さ。なかなかどうして簡単にできることではない。 作中、私はたいへん共鳴したところがあった。それは眉村卓の妻が、「わたし、してもらいたいことがある」と病床の身ながらハッキリと口にしたことである。「お葬式の名前は、作家眉村卓夫人・村上悦子にして欲しい」とのこと。私はこの言葉に胸が熱くなった。私も同じ立場ならそれを望んだかもしれない。(ちなみに通夜と告別式の案内のために道筋に立てられた表示板には、そのとおりがしるされたらしい。)夫の職業に誇りを持ち、生涯協力者であり続けた妻の最後の願いに、涙が止まらなくなる。 本来なら作品一つ一つの主だった感想を述べるところだが、私が評価するのは何より、この作家の根気と努力である。一つのことを淡々と継続していくことがどれほど大変なことか、おそらく皆さんもお分かりであろう。「継続は力なり」という格言があるけれども、『妻に捧げた1778話』はその筆頭かもしれない。熱しやすく冷めやすい方々、どうかこの作品のショートショートとエッセイを読んで、物事を続けていく意義とか意味を一考していただきたい。暑い夏こそ、我が身を冷静に省みるのはいかがだろうか?! 『妻に捧げた1778話』 眉村卓・著★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから