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吟遊映人 【創作室 Y】

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2020.03.07
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【ジョーカー】

「狂ってるのは・・・僕なのか、それとも世間なのか・・・?」
「(世の中は)不満が高まってる。人々は動揺して必死に仕事を求めてる・・・生きにくい時代だわ」


ちまたは今、新型コロナウィルスのことで、これまでになく騒がしいけれど、ムリもない。
今のところ特効薬がないため、罹患してしまったら一体どうなってしまうのか想像がつかないからだ。
ならばどうしたら良いのか。そう、予防するしかない。その予防策についても、デマや不確実な情報が多い。そんな中、今自分は何をしたら良いのか、何をすべきかをよくよく考えて行動しなくてはならない。
さしあたり私にできるのは、むやみに人混みに行かないことぐらいだ。
イオンの食料品売り場で必要最低限の買い物を済ませたら、すぐに帰って来た。いつもの週末とは比較にならないぐらい人はまばらだった。駐車場もガラガラだった。
これが一体どういう状況であるのか、ごくごく平凡な一市民でしかない私にもよく理解できる。
若い息子も、今回ばかりはフラフラ外出することもなく、在宅。amazonのプライム会員である息子は、時間を持て余したのか『ジョーカー』を見始めた。
私はこれ幸いとばかりにこたつで足を伸ばし、一緒にテレビに向かった。他人様に迷惑をかけることもなく、また、かけられることもなく、社会の片隅で生きるしがない親子二人が、束の間の娯楽を分かち合えるひと時となった。

『ジョーカー』のストーリーはこうだ。
舞台は1981年、アメリカ・ゴッサムシティ。
貧困層と富裕層との格差が深刻化し、並行して犯罪も横行し、街は汚く荒んでいた。
アーサー・フレックは道化師として日雇いの仕事をしていたが、あるとき、その仕事中にスラム街の少年たちから集団暴行を受け、商売道具をめちゃくちゃにされ、あげくの果てにアーサーは悪くないのに雇い主から「弁償しろ」と叱責される。
アーサーはメンタルに問題を抱えていた。
とくに楽しいわけでもないのに、発作が起こると突然笑い出してしまうと言う病気だった。
そのせいもあり、仕事仲間から気持ち悪がられていて、周囲には馴染めないでいた。
ロッカールームで、金銭目当ての同僚から「護身用に」と半ば強引に譲られ、アーサーは返すこともできなかった。
ボロアパートに帰ると、精神疾患でまともに会話のできない母親がテレビを見ながら待っていた。
二人の生活は社会の最下層に位置し、かろうじて住む場所があるだけマシ、という状況だった。
母親は以前、大富豪のトーマス・ウェイン宅で働いていたことを唯一の誇りと考えるあまり、何通もの手紙をウェイン氏宛に書き、救済を求めるのだった。
アーサーは、そんな母親をなじるわけでもなく、優しく面倒をみていた。

そんな中、不幸は重なるもので、ピエロの格好をして小児病棟を慰問している際、つい忍ばせておいた銃が足もとに落ち、子どもたちの目にさらされてしまった。
このことでアーサーは完全に仕事を解雇されてしまう。
ピエロの格好から着替える意欲もなく、絶望的な気持ちで地下鉄に乗っていると、若い女性がビジネスマンの酔っ払い3人からからまれていた。
見るともなく見ていたアーサーは、そんなときに限って発作が起き、笑いが止まらなくなってしまう。
酔っ払いの3人は、大笑いするアーサーに矛先を変え、今度はアーサーにからみ始める。
アーサーの中で何かが弾けた。
忍ばせておいた銃を取り出し、2人を射殺。
逃げるもう1人もこれでもかと言うほど執拗に追いかけ、撃ち殺してしまう。
そのときのアーサーに罪悪感など微塵もなかった。
恐怖や不安から解放され、えも言われぬエクスタシーが身体中を満たしていったのである。

この作品のテーマはズバリ、「最貧困に怖いものなし」であろう。
ここからはネタバレになってしまうが、アーサーは単なる貧困母子家庭の延長線上にあるだけでなく、親子そろってメンタルに問題を抱えている。
信じていた母親も実は養母であり、アーサーは幼いころネグレクトを受けていた。
本当に愛されているのかどうかも疑問である。
唯一の頼みの綱であった福祉の援助も、財政難からカットされ、カウンセリングは打ち切りとなり、向精神薬の処方さえしてもらえなくなる。
こうなってしまうと人間とは不思議なもので、何も恐れるものなどなくなるのかもしれない。
自殺する勇気のある人ならまだ救いようがあるかもしれないが、その狂気が内側ではなく外側に向いたとき、人はどうなってしまうのか。それがこの作品の深いところに流れる混沌としたテーマのような気がする。

主人公アーサーを演じたのはホアキン・フェニックスである。代表作に『グラディエーター』『サイン』『ホテルルワンダ』『her 』『アンダーカヴァー』などかある。
(彼の兄は言わずと知れた『スタンド・バイ・ミー』のリヴァー・フェニックスである)
これまでずっと「リヴァ・フェニの弟さん」と言われ続けて来たであろうホアキン・フェニックスだが、この『ジョーカー』で彼は俳優として本物であることを見せつけてくれた。
(いや、これまでももちろん個性的な演技で、魅了されなかった作品など一つもないが)
作中の狂気は尋常ではなかった。
役作りのために痩せて、あばらの浮いた上半身にさえ絶望の2文字が見えてくるようだった。
また、誰に見せるともなく踊るステップに、ただただ自己陶酔と狂信的な闇を見た気がした。
私は心の底から不安と恐怖と、そして絶望を感じたのである。
こういう作品はヘタな戦争映画を見るより100倍もこたえる。
格差社会と言われて久しい現代にあって、あながちあり得ないことではないからだ。

今さらだが、この主人公アーサー・フレックこそ、後の『バットマン』に登場する悪のカリスマ〝ジョーカー〟となる。
とは言え、『バットマン』を見たこともない私が、この『ジョーカー』を単体で見ても、充分に底知れぬ孤独と狂気の沙汰を感じ得ることができた。
この春一番のオススメ作品であるのは、間違いない。
※ヴェネツィア国際映画祭にて最優秀作品賞(金獅子賞)受賞

2019年公開
【監督】トッド・フィリップス
【出演】ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ

ご参考まで《吟遊映人》の過去記事です(^o^)/

●グラディエーターはコチラ

●ホテルルワンダはコチラ

●アンダーカヴァーはコチラ

●herはコチラ

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最終更新日  2020.03.07 14:02:06
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