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October 4, 2006
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カテゴリ:科学雑学
2006年度のノーベル賞の発表が現在進行形です。
これを知って、ここが科学ネタのブログだったことを思い出しました。ダメポ。
(そう言えば、いつの間にか楽天ブログになってる・・・?気づくの遅い?)


一昨日に医学・生理学賞が、昨日物理学賞が、今日付けで化学賞が発表されました。
残念ながら今年も科学賞には日本人はおりません。
文学賞に村上春樹が大穴で来るかも?みたいな予想はあるようですが、はてさて・・・そういえばこの間「海辺のカフカ」を読んだばかりでした。透徹な世界観は嫌いではありませんでした。

「ノーベル賞を○○年間に○○人出す」とかいうヘンな国の目標を良しとする気は毛頭ありません。どういうつもりでああいう発言が出たのか、僕にはよくわかりませんけれど、
ノーベル賞は世界的に見て注目される賞であることは確かで、非常にインパクトのある研究を行った人が選ばれるので、注視して損はないハズです。


物理学賞は宇宙論に実測的な証拠を与えた宇宙背景放射の研究について評価された、ということらしいです。
物理は全くわからないので誰か詳しく教えてくれないでしょうかね・・・

医学生理学賞は、2本鎖RNAによる遺伝子の働きに対する干渉、RNAi(RNA干渉)の発見に対して、でした。
今回の受賞者がこの現象を報告してから、まだ10年も経ってないというのに、競って研究が行われ、遺伝子治療に向けた臨床段階の一歩手前だというのだから、おそろしいインパクトだったのでしょうね。
今年論文捏造疑惑の持ち上がった東大の教授は、この「RNAi」の権威でした。競争の激しさの象徴でしょうか。
曰く、「もらって当然の発見」だったそうで。
この技術が実用化すれば、身体に害となる遺伝子の発現をこの小さなRNAを使って抑えることができ、病気の治療・予防に役立つということです。


化学賞は、またもや核酸に関わる話ですが、「DNA→RNA→タンパク質」という生物の基本原則、いわゆる「セントラルドグマ」のうち、
DNAからRNAへの情報の移し変え、「転写」についての―それも我々ヒトなど高等生物を含む「真核生物」の―研究が受賞理由でした。
最近の化学賞は生物よりの受賞が多いですね。

**************************************************************************
さて、化学賞の受賞者はロジャー・コーンバーグという人なんですが、最初この名前を見たとき、「ん?」とハテナマークが浮かびました。
コーンバーグという名前が珍しいのかどうかはわかりませんが、以前どこかの教科書で見た気がしました。「美味しそうな名前だな」と思ったんですよ。

「そうそう、アーサー・コーンバーグだ」
生化学・分子生物学の教科書には必ず載っているでしょう。
アーサー・コーンバーグは、1959年に医学生理学賞を受賞しています。受賞理由は『DNA合成酵素の発見』です。

我々が生きていくためには絶えず細胞は新しく作りだされなくてはなりません。
皮膚が毎日垢となってはがれていってそのままならば、私達はすぐに骨と内臓だけになってしまうでしょう。新しく皮膚の細胞が作り出されるためには、細胞が分裂しなければなりません。
細胞が分裂するとき、親細胞が持つDNAも分裂した細胞に等しく分配してやる必要がありますが、もし親となる細胞がそのままDNAを子供細胞にあげてしまえば、子供の持つDNAの量は半分になります。遺産といっしょですね。
この場合、子供は遺産を親の半分しか持たないので、財力が半分しかありません。彼が子供にまた遺産を分配すると、孫の持つ遺産DNAはもともとの1/4になってしまいます。このままではそう遠くないうちに、この家系は没落し、細胞分裂できなくなってしまうことでしょう。
子供細胞が相続で不満を言わないためにも家が安泰に続くためにも、親は(現実にできたらどんなにかいいことでしょうが)DNAを倍にして子供に受け渡すという離れ技をやってのけます。
これで子供たちも満足して親と同じ額の遺産DNAを受け取ることができます。以下同文でめでたしめでたし。

この離れ業、『DNAの複製』を行うのがDNA合成酵素です。
A・コーンバーグは存在の示唆されていたこのDNA合成酵素を発見・精製し、なんと試験管のなかに複製したいDNA分子とDNAの材料と精製したDNA合成酵素を入れて、みごとDNAを複製させ、世界を驚愕させました。
親から子、子から孫へと生命が連綿と続いていくための根本的な作用、DNAの複製という仕事を、試験管の中でやってのけたのです。

アーサー・コーンバーグは80歳を過ぎていまだに自分で研究を続けています。
精力的なんてもんじゃないですね。
彼は、自分は「酵素に恋をした」と言ってます。・・・ここでの反応は人それぞれでしょうかwなんとも研究者らしい言葉であるとは思います。



さて、今回化学賞を受賞したR・コーンバーグは話の流れからお分かりのように、アーサーの長男です。
親子での受賞は、ノーベル賞の歴史の中でこれで7組目だということ。

受賞理由が“DNAからRNAへ”ですから、まさに父親の跡をついだ、ということになるでしょうか。
RNA合成酵素はアーサーと同時に受賞した研究者によって発見されていましたが、ロジャーはこの、DNAからRNAへどう情報を写しとるか、という謎を分子のレベルで明らかにしました。
『分子のレベルで』というのは、
このRNA合成が細胞内で実際に起こるためには、Aという分子がDNAにくっついて、次にBという分子がそれを補助して、さらにC分子がBにひきつけられてDNAにくっついて、DがRNA合成のスイッチをオンにしたらDNA上をRNA合成酵素が動き出す
という風にDNAの情報の写しとり、という神秘的で神の作りたもうた(ような)現象が分子を使った言葉で説明できるようになった、ということです。

ロジャーのすごいところは、この神秘的なRNA合成(転写)反応を、我々ヒトなどの高等生物の属する『真核生物』について明らかにし(原核生物については研究がなされていたようです)、なぜたった一つの受精卵から発生した私達が神経や筋肉や皮膚など、多種多様な細胞を持つことができるのかについての理解を進歩させたこと、そしてさらにそれを分子レベルに飽き足らず、原子のレベルで明らかにしてしまったこと、でしょうか。ロジャーは反応が進んでいるところの『写真』をとることに成功したのです!

コーンバーグ親子はともに生命の根幹である遺伝子DNAについての研究でノーベル賞を受賞することになったわけですが、(ノーベル賞のホームページにもあるように)偉大な研究をなした父に劣らず、息子にも“コーンバーグの遺伝子”が受け継がれていた、ということなのでしょうね。

Nobelprize.org参考。流石親子。二人とも顔がソックリ。
The Dolan DNA learning center:右上のMedia showcaseのなかに、Transcription: DNA codes for mRNA, 3D animationというのがあります。実際にグラフィックでRNA合成を見れます。割と感動。割とコミカル。


と、大風呂敷を広げておいて、今度の更新の時には、その内容について説明できたらいいなぁ。
ノーベル賞の内容の説明とかしたら、インパクトある内容だし、こっちも勉強になるかな、なんて思いました。





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Last updated  October 5, 2006 01:48:34 AM
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