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カテゴリ:科学雑学
本当にご無沙汰してます。
半年くらい放置になってしまいました、 ちゃんと生きてます。
院の生活も二年目を迎え、将来のことにも悩み、考え方もいろいろ変わりました。
なにはともあれ、大学院生生活は不規則です。
抜け毛も増えます。
マジで(泣)。 マリオはちょっと髪の毛薄いです。 まあ、それはいいのです。そんな人間も認めてくださいよ。 最近はネタにして楽しんでおります。
そんなマリオですので、髪の毛の話題には敏感です(笑)。
自然科学系の世界最高峰の学術雑誌『Nature』の今週号にこのような論文が載っていました。
Wnt-dependent de novo hair follicle regeneration in adult mouse skin after wounding (邦訳)成体マウスの創傷後の皮膚におけるWnt依存的な毛嚢de novo再生
小難しい言い方をしてますが、簡単にいいますと、
けがで毛が生える ということです。 いや、ホントに。 シャレでなく。
驚くべきことではないでしょうか?
毛は皮膚の奥にある毛嚢(のう)細胞から生えています。この毛嚢細胞は我々が生まれてくる段階で形成されるもので、通常は大人になってから新しく作られることはありません。(思春期になってきて胸や足に体毛が生えるのは、もともと毛嚢細胞が存在しているからでしょうか?よくわかりません。マリオの不勉強です。) しかし、 なんと傷によって全く毛が無くなり、毛嚢細胞が失われた皮膚から、毛が再生してくるというのです。
著者らは、マウスを使っての実験でこのことを確かめました。 痛々しいことですが、マウスの背中の皮膚を1平方センチほどざっくり切り取ります。 この部分には毛嚢細胞は無くなります。 しかし、15日ぐらい経つにつれ、毛嚢細胞が徐々に現れてきて、さらに80日ぐらい経つと毛が生えてくるのです。 この傷跡から生じた毛嚢細胞からは、毛が抜けてまた生えるという、ヘアー・サイクルを繰り返します。(アデランスとかのCMでやっているヤツですね。)つまり、この新しく生まれた毛嚢細胞は完璧にもとからある毛嚢細胞と同じものなのです。
毎日抜け毛にびくびくする(という脅迫観念を社会に持たされている)人たちには、このことは非常に希望が持てる内容ですよね。 ただ、だからと言って自分の頭の皮膚を削ってやってはいけません! よく考えてみれば、毛が再生するというだけで
しかし、この論文には希望があります。いろいろな意味で重要です。
まず、 「実験が生体で行われている」(in vivo system)ということです。 実験はしばしば異常な条件で行われます。生体内で使われる以上の濃度の薬を投与したり、細胞一つだけで実験してみたり。 しかし、今回の報告は極めて生体に近い条件です。 通常のマウス個体を使っていて(遺伝子変異導入は行っていますが)、この再生反応が極めて自然に近い現象であることがわかります。
また、同じ哺乳類であるマウスから人への応用はそんなに難しいことではないでしょう。人への応用研究が期待きます。
次に、 「再生反応」であるということはそれ自体重要です。 ヤモリ(?でしたっけ)の尻尾は、敵に襲われたときにプチッと切り離すことができ、その隙にヤモリは逃亡します。 プラナリアという動物がいます。恐ろしい再生能力を持っています。 ヒトにはこういう能力はありません。残念なことに事故で手足を失った人は、プラナリアのようにそこから四肢が再生することはありません。 この論文で著者らは、再生した毛嚢細胞は周囲にある普通の毛嚢細胞が分裂あるいは移動してきたものでは無さそうだということを示唆しています。(少々不確定です。) すでに皮膚の細胞としての役割を果たしていた細胞が、その役割を変えたのです。 役割を決めた(分化している、と言います)細胞は、一生その運命を全うします。途中で役割を投げ出すことは滅多にありません。細胞社会は専門的すぎて、転職が難しいのです。ただ、言い換えれば融通が利かないわけで、これはいわゆる再生医療の妨げになります。 毛嚢細胞が皮膚細胞から生じたとすれば、そのメカニズムの解明は再生医療に大きく寄与するでしょう。
そして、なにより驚くべきことは、この反応がただ傷を作るということだけで生じるということです。 特別な薬を投与したわけではありませんし、ものすごい高度なテクニックが必要なわけでもないと思います。 自然に、生体内の反応として再生現象が起きたというのは驚くべきことだと思います。 この現象は特別なシステムを使っているわけではなく、上記のように通常の毛嚢細胞と区別できません。 つまり、ナチュラルな再生反応であり、応用への期待が高まります。
また「Wnt」と呼ばれる分子がこの再生反応に関わっていることもわかりました。 Wntは細胞間のコミュニケーションに重要な分子です。このWntを活性化すると毛嚢細胞が倍増し、不活性化するとなくなりました。 Wnの関与からわかるように、再生反応に何らかの分子が関わっていることが予想されます。 これらを探して、将来の再生医療に役立てることができるでしょう。
という風に、色々妄想は膨らみます。 応用がすぐにできるワケではないですし、マリオは再生医療の専門家ではありませんので、再生医学の分野のヒトがこの論文をどう思うかは知りませんが、個人的に面白いなー、と思いながら読んでいました。 決して毛の話だったからではありません(笑)。ウソですごめんなさい、気にしてました。
参考: Ito et al., Nature; 447, 316-20(2007) Cheng-Ming Chuong , Nature; 447, 265,6(2007) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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