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2014.02.21
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第5回日経小説大賞受賞

「スコールの夜」、今週日経新聞出版社が発売を開始した小説のタイトルです。作者は、芦崎笙(あしざき しょう)さんです。
この小説は、2013年12月に発表された第5回日経小説大賞の受賞作です。
日経小説大賞は、日本経済新聞創刊130周年を記念して2006年に創設された文学賞です。現代小説、時代小説などのジャンルを問わず、豊かな物語性、時代性、社会性、娯楽性を兼ね備えた小説を公募するとされ、400字詰め原稿用紙換算で300枚から400枚程度の長編小説を対象としています。第5回は、200編の応募の中から「スコールの夜」が受賞となりました。選考委員は、辻原登、高樹のぶ子、伊集院静の3人の作家です。


芦崎笙さん

芦崎笙というのはペンネームですが、作者の実像を公開しない匿名ということではありません。受賞を報道した2013年12月24日の日経新聞の朝刊においても、発売された「スコールの夜」の作者紹介においても整った写真を掲載するとともに、経歴を紹介しています。「1983年大蔵省(現財務省)入省後、税務署長、大使館、金融庁、内閣官房などの勤務を経て、現在、大臣官房参事官」です。官庁において、参事官という役職は局長と課長の間に位置する審議官クラスの場合と課長クラスの場合がありますが、芦崎さんの場合は審議官クラスの参事官です。ちなみに、財務省のサイトで「幹部名簿」を見ますと、大臣官房参事官の役職に10人の方の名前が並んでいます。それぞれに担当する局が決まっていて、通常は「○○局参事官」と呼ばれています。


あらすじ

受賞を報じた日経新聞では、あらすじが次のように紹介されています。
「平成元年に東大法学部を卒業、都市銀行トップの帝都銀行に女性総合職1期生として入行した吉沢環(たまき)は女性初の本店管理職に抜てきされた。命じられたのは、総会屋・暴力団への利益供与や不祥事隠しなどの役割を担ってきた子会社の解体と、それに伴う200人の退職勧奨の陣頭指揮。保守的な企業風土による女性総合職への偏見や差別に耐えての昇進を意気に感じ、後進のためにもと荒療治に乗り出すが、男性行員の感情的な反発を招き、子会社を巡る経営幹部の派閥抗争に巻き込まれていく」


選考委員のコメント

選考委員は、辻原さんが、現代社会のからくりに最も精通している中枢の人間がその実像を女性を主人公に据えるとの優れた着想をもとにして文体(小説の言葉)で見事に描いた、高樹さんが、女性版半沢直樹だと感じたが汚れ仕事と格闘させる組織上層部の非情な姿を炙り出した点では本作に軍配を上げたい、伊集院さんが、作品の導入部から八分目あたりまでは圧倒的な面白さと劇的な強さを持っている、との評価をしています。


観察眼・描写力

実際に読みますと、主人公の環が有能な弁護士と仕事で会った際の描写において、皇居を見下ろす弁護士の執務室からの眺めを「これが御所、その手前に見えるのが・・・」といった説明を嬉々としてする姿について、「こういう時の男たちの顔は女の目には実に幼稚に映る」と環の内心のセリフを書いています。この部分、女性作家が書いたかのようなリアリティを感じます。芦崎さんの、女性観察眼と描写力の高さに感心します。
また、銀行で昇進する男たちについて、「みんな実に忍耐強く、どこまでも調整の労を惜しまない。関係者らがてんで勝手な主張を展開する中で、こんがらがる糸を解きほぐすように議論を整理し、利害を調整し、ぎりぎりの妥協点を導き出す。それで結果はいかほどかも変わらない。ただ関係者の顔を立てるためだけに費やされる膨大なエネルギー」との描写があります。これには、政治や利害団体との調整の芸の細やかさを求められる官僚である芦崎さんならではの迫真力とともに、このような組織のあり方をある意味冷やかに見る思いを漂わせます。
東大入学以来、財務省などでの仕事とそこでの様々な情報を糧とした、鋭い観察眼と的確な描写力は、「スコールの夜」の魅力です。奥深い環の心理描写を読みながら、1990年代に引き込まれるように読んだ、丸谷才一の「女ざかり」を思い出しました。


着想・構想力

「スコールの夜」の魅力は、観察眼・描写力の高さもさることがら、不良債権処理が課題だった時期の銀行について熟知している芦崎さんならではの視点から生み出される、大銀行を舞台にしての組織と個人の葛藤です。頭取派と会長派という社内の派閥抗争、人事権のある上司の歓心を買うべく部下を捨て駒のように使う幹部、という決してほめられないながら日本の大組織にあり得る問題を指摘しています。そこに、東大法学部卒の女性総合職という主人公設定の着想が面白さを倍加しています。
読んで面白く、その上で作者のメッセージが伝わる、という点で水準の高い小説になっています。


芦崎さん

芦崎さんは、私が通産省に入省したのと同じ1983年に大蔵省に入省しています。同じ経済官庁ということもあり、大蔵省の同期に知人は多く、特に芦崎さんは社会人となる前から個人的に知遇を得ています。スマートな身体つきと同じく立ち居振る舞いもスマートです。人となりのさわやかさは、掲載された写真が示すとおりです。


期待

官僚という多忙な生活の中で時間を紡ぎだして小説を書くとの大事業には、感服します。受賞の報道の中で、初めて書いたものと2作目がともに日経小説大賞で最終選考に残ったとありました。すなわち、初めてそしてその次も、200作の中の1番にこそなりませんでしたが、50、60作の中では1番だったとのことです。このことから、作家としての才能があるのだなと思いましたが、実際に「スコールの夜」を読みますとその想定を超えるものを感じました。
2月19日(水)の受賞式を傍聴させていただいた際、伊集院さんが「毎日書き続けることによって作家としての腕が磨かれる」と励ましていらっしゃいました。事務次官が1979年入省と4年上の先輩の財務省で、まだ3、4年は芦崎さんも官僚として仕事をされるわけです。この間、官僚との2足のわらじで秀作を書かれることと思います。その後は、本格的に作家として活躍されて、作品に磨きがかかると思います。小説のジャンルは少し異なるかもしれませんが、大蔵官僚から作家となった先輩の三島由紀夫(1947年入省)に並ばれることを期待します。






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最終更新日  2014.02.22 04:43:09


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