最近ではJim Jarnush監督の映画「コーヒー&シガレッツ」にも出演している、酔いどれ詩人ことTom Waits。写真右上は言わずと知れた彼のデビュー盤「Closing Time」。こう言うと語弊があるかもしれませんがこのアルバムが発売された73年当時、確かにTom Waitsは二人いました。
70年代初頭、偉大な音楽プロデューサーJerry Yesterは次に手掛けるアーティストを探していました。アーティストのイメージは「酒場で歌う、ダミ声のピアノ弾き」。このイメージのもと二人のアーティストが集められました。二人の名はTom Waits、そしてBilly Mernit。どちらかを選ぶ予定でしたが、二人とも素晴らしい才能の持ち主だったので、Jerryは二人を同時にデビューさせる事にしました。
写真左はTomの「Closing Time」と同じ年、同じプロデューサー、同じコンセプトによって作られた、Billy Mernitのアルバム「Special Delivery」。不思議な事に、この双子のようなBillyのアルバムはTomの泥臭いテイストとは反して水彩画のような繊細な感覚に満ちています。
「人間の心しかり、世の中のすべての物は相対する面によって構成されている。」Jerryがそう言っているかのようです。こうして生み落とされた双子のアルバム、そこに秘められた謎かけは今も解かれないままです。