カテゴリ:映画
黒木和雄監督の作品です。
この8月から公開されています。神保町の岩波ホールで上映しています。 すでに何度もここで書きましたが、この監督の映画が僕は好きなので今日観に いってきました。 ストーリーなどはこちらをみていただくとして http://www.pal-ep.com/kamietsu/story.html 原作は舞台のための戯曲だそうです。だからということもあると思いますが、 場面の転換は少なく、(間をふくめての)台詞というか会話のやりとりがもの すごく丁寧で、空気で訴える、そういう種類の良質な映画でした。 ちょっとした想像力と集中力を持って観たほうが楽しめるという、そういう 意味でも舞台的な映画だと思います。 役者さんは力が問われる映画だったのではないでしょうか。 ---------- さて、話は飛びます。 ここからは映画の感想というより、映画を見終わった後に浮かんできたことを言 葉にまとめたものです。 そもそも明快で単純なフレーズで何かを訴える、というやりかたは強い力をもち えるし、なにごとかを成すための戦術としてはとっても有効なんだろうなと、 そう思うことはしばしばです。 特に仕事なんかをしていると、持っている力を最大限に効果的に発揮することに 意識がゆくので、そういうことは日ごろ考えざるを得ない状況であります。 プレゼンテーションの他にも、あるいはラブレターを書くときなんかもそういう ことはあるかもしれません。 でもその一方で、そんな簡単には言い切れない、もっと微妙で曖昧で輪郭も定か ではないしいつも境界が揺れ動いている、場合によっては居心地悪くさえ感じる かもしれない、そういった「グレーな」ものの集積で、人の心やら人の心の関係 である僕たちの社会は成立していると、そもそもそう僕は考えています。 ふと空を見上げたときに気がついた夕焼けについて、「綺麗だよね」とか、それ は言葉にすることはできますが、状況そのものや、その時自分の内で起こった 心の揺れ動きについて、そもそも自分自身でも正確には捉えられないし、 言葉にして表現をするとかならずそこから漏れ落ちる何かがでてきてしまう、 本質がどこかへするっと逃げていってしまう、そういう永遠の捕らえようのなさ が物事にはいつもつきまとっていると、そんな風に僕は考えています。 そういった不完全さの受容と、それでもそこに何か本質的なものがあるはずだと いう確信とがいまの僕の態度の根本を成しているといっていいと思います。 そうして、だからこそ、冒頭にでてくる屋上の老夫婦のシーンに象徴される、 冷静に考えれば過剰とも思える引いた演出に、絶対に何かを言ってしまわない この映画の上品さに、僕は強く惹かれたのだと思います。 ---------- あるいは矛盾するかもしれませんが、「絶対何かを言ってしまわない」ことの 徹底がこの映画の強い力をもたらしているのだと思います。 この映画のテーマは戦争です。昨日まで身近にいた人物が自死を選ばざるを得ない (本人がそのことをどのように捉えていたかは詳細には描かれていませんが)客観的 にみれば狂気のようなその状況下の物語を、この演出とこの演技で描いて、すばら しく観応えのある映画になったのだと思います。 こういう映画がつくられて観に来るひとが沢山いるという社会は、悪くないんじゃな いかとそう思います。 ---------- あ、結構笑いもありますよ。みんな声だして笑っていたし。ユーモアがあります。 原田知世演じる主人公だって結構逞しいし。 お勧めの映画です。 星をつけると ★★★ 満点でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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