私と猫と編み日記-幸せな女と思われたい-

どうも耳の調子が悪いのか、
誰かが誰かを呼ぶ声が
全て私を呼んでいるように聞こえる。

ほんとね、どんだけ人気者かって思った。
ついに、私の時代かって思った。

振り返っては振り返っては
声の主は私の方を見ていない。

あの瞬間の空しさったらない。

ただ振り返っただけならまだしも
声付きで振り返ったときなんて
目も当てられないかんね。

私なんて、よく名前を間違えられるわけなんですよ。
漢字の間違いだけではとどまらず
ほんと読み方とかね。

でもね、まよくあることだからさ・・・なんて
ちょっと慰めつつ、
最近では、読みたいようにどうぞっつーくらいの
心の広さも見せ付けてる。

言うなれば、もう慣れっこなんですよ。私ね。
免疫出来てるどころか、もうね麻痺。麻痺してっから。

だけどね、なんつーのかな
名前は間違えられることはしょっちゅうだけど
苗字はさ、あんまり間違えところがないと思ってるんですよ。

だけど、そういえば、
間違ってた人いたんじゃないかなーって思い出して。
結構、私も覚悟決めたんじゃなかったかなーって。

今の会社に来たとき
私は、ばっちり自己紹介したにも関わらず
私の上司に苗字を間違えて覚えられていた。

それが、もの凄い間違いだったら
私だって、そりゃ、
ちょっとちょっとちょっと！！なにしてんの！？
くらいは言うんだけど
微妙なわけなんですよ。

浅井
がね
浅川
に早代わり。

あーーーー！！！！！！
それー惜しいー！！！
ってな。

で、まー細々と抵抗はしてみたんだけど
ほんとね、「井」の存在が薄いのか
はたまた、私の存在が薄いのか、
全くね、気が付いて貰えなかったんですよ。

渡されるメモにも
堂々と「浅川さんへ」って書いてあったし
遠くから呼ぶ声も「浅川さん」だったかんね。

２日過ぎ３日過ぎ、１週間が過ぎた頃には
行き先板の名札までもが
「浅川」で作成されてた。

あっあの新しく来た人って
浅川さんって言うんだーってそろそろ浸透してきた頃には
もうね、抵抗する気力もなくなってた。
いいかなーって。
そういえば、私、浅川だったかも知れない・・・・って。
つうかむしろ、もう浅川で行くって決めた。

そんな頃ですよ。
同じ部の他のおっさんね。
「あれ？」なんて言い出したの。
ほんと、なんつーのか、
私、飛びつきました。
やーほんとね、地味なイジメかと思いましたよーなんつって。

で、まーそれからは順風満帆っつうか
名前も改められて、
２ヶ月も過ぎた頃は
浅川なんて呼ばれてたことすらも
いい思い出だなーなんて。ね。
思ってたわけ。浸ってたわけ。

それなのに、また横の方から
「浅川さんちょっと！」って言ってるおっさんがいるのね。
えー！って思って。
昔の引き出し開け過ぎなんじゃねぇ？って。

振り向いて、
目というか耳を疑ったのは
今更「浅川さん」って言ってるの
「あれ？」って言ってくれたおっさんだったんですよ。

その時のショックったらなかった。
ショックっつーか、ほんと殺意芽生えた。
おめぇに限って間違ったら駄目でしょって。

いつか、何かの形で
借りは返そうと誓った約２年前。

最近気が付いたんだけど
そのおっさんも、
よく、他社の人から名前を間違えられてる事がある。
まれに、社内の人からも間違えられる事もある。

勤続何十年で、それ、ないなって。

それに気が付いたとき
なんとなく、勝ったと思った。

因みに、最近の私は、
名前の事なんて、
心配ご無用。

間違えられるどころか
それほど呼ばれることさえありません。