むのたけじの伝言「再思三考」転載
2014、9月19日「14日に長野県で行われた「信州岩波講座」という講演会で話をしてきました。400人くらい集まっていたのですが、終わった後の質問で、こんどの朝日新聞の問題はどうなるのか、と心配する声が非常に多く聞かれました。 従軍慰安婦と福島原発事故と池上彰さんコラムの三つに関する問題です。質問は、マスコミ界全体が、真正面から自分達の問題だと捉えなければならないのに、ことの本質がすり替わっておかしな方向に行っている、という心配や怒りのようでした。それで今回は、この問題について、これからどうすれば良いかを話すことにします。私は敗戦の日に朝日新聞を辞めた。負けを勝ち戦とウソの記事を書いて読者に届けてきた責任を取らなければならないと思ったからです。でも今は、あのときの判断は浅すぎたと思っています。辞めずに残って、なぜあの戦争が起こったのか。なぜとめられなかったのか。本当のことを書く新聞だったら 開戦の日や南方で多くの兵隊が亡くなった日々をどう書いたか。そういう検証記事を書かなければならなかったな、と思ったからです。朝日の社長は「おおよその道筋をつけた上で、すみやかに進退について決断します」とやめるような発言をしていますが、それですむような問題ではない。社長をはじめとして、報道の現場が死に物狂いで過ちを正すことが本当の対策です。それをきちっとやった上でナイト、次のステップには進めません。今この問題を見ていると、他の新聞社が朝日の失敗をチャンスと見て販売合戦に利用しているように見えます。本来なら、他山の石として自社の姿勢を考えなければならないのに、情けないですね。ジャーナリストとは何か。一番大事な任務は、社会の歩みに間違いがあったら正す。権力が隠そうとしていることを暴き出し、社会の動向について正しい方向に先導するということです。それを、慰安婦問題の証言者の発言を「虚偽だった」と朝日が取り消したことで、政府などはまるで慰安婦問題がなかったかのような、あるいは日本側の過ちが軽いかのようなとらえ方をしようとしている。国連報告書の作成者は、虚偽証言とされたものは証拠のひとつに過ぎず全体像を修正する必要なし、という趣旨の発言をしているのにです。原発問題についても、政府や電力会社は、対応に問題があったことには目をつぶり、そらそうという姿勢があるように見えます。 2.26事件が起きたとき、朝日新聞に軍隊が突入した。自由主義だといって憎まれていたもの。でも、時の総理ら』大勢の政治家が殺傷された中で、社員は一人も危害を加えられなかった。それは軍部が」、新聞社の後ろに大勢の国民が見えたからだと私は思っているんだ。読者が朝日を守ったんです。それだけ読者と新聞社の間には仲間意識があったんだ。一緒に新聞を作っているという。当初が来ても「愛読者」とかいてあったものな。いまはただの「読者」になった。それを元の愛読者に取り戻さなければならない。そのためには今回の問題でひるんではだめだ。ジャーナリズム本来の役割に向かって、悪いことは悪いと書き続けないと。当時の朝日の主筆と編集局長は、いつ右翼に襲われ倒れても、もぐるしくないように毎日新しい下着に変えていたそうです。そういう覚悟で徹底的に社会の役に立つ新聞になることを目指してほしいと思います。」