「食品の裏側」という本をご存知でしょうか?
「添加物の神様」とまで呼ばれた、安部司さんという業界トップセールスマンの方が、現代の日本における食品の実態を赤裸々に告白した本です。
私は20代の半ば頃からでしょうか、食に対する意識がとても変わりました。母が闘病生活を送るようになってからは、尚更でした。
極力添加物を取らないようにするのはもちろんのこと、無農薬や有機栽培の野菜を取るように心がけました。
それで行き着いた先が、バイオダイナミック農法であり、今の私のショップの紅茶やハーブだったりするのですが、この「食品の裏側」という本では、その驚くべき食品業界の実態が告発されています。
日頃から食に対して気を使っていらっしゃる方は「やっぱり食事に気をつけよう」と再確認できる本であり、殆ど意識していなかった方には食生活を見直す機会を与えてくれる本だと思います。
昨日、その著者である安部司さんの講演会に参加する機会に恵まれました。
講演会の内容をピックアップしてお伝えしようと思ったのですが、最初に、この「食品の裏側」という本の中から、どういう経緯で安部さんが添加物に疑問を持ち、方向を180度転換されたのかのきっかけ部分をお伝えしたいと思います。
<以下、「食品の裏側」より、一部抜粋>
その日は長女の3回目の誕生日でした。
当時の私は絵に描いたようなモーレツサラリーマン。午前様が当たり前で、家で食事をすることもめったになく、だからこそ娘の誕生日ぐらいは日頃の埋め合わせをしなければと、仕事を早々と切り上げて帰宅しました。
食卓には妻が用意したご馳走が、所狭しと並んでいます。
そのなかに、ミートボールの皿がありました。
可愛らしいミッキーマウスの楊枝がささったそれを、何気なく口に放り込んだ瞬間、私は凍りつきました。
それはほかならぬ、私が開発したミートボールだったのです。
私は純品の添加物ならほぼすべて、食品に混じりこんでいるものでも100種類ほどの添加物を、舌で見分けることができます。
いわば「添加物の味きき」「添加物のソムリエ」と言ったところでしょうか
(ただ、ワインのソムリエと違い、あんまりなりたいという人はいないでしょうが・・・)。
コンビニの弁当などを食べるときも
「このハムはちょっと『リン酸塩』が強すぎるな」
「どうしてこんなに『グリシン』を使わなくてはいけないんだ」
などと、ついつい「採点」をしてしまうくらいです。
そのミートボールは、たしかに私が投入した「化学調味料」「結着剤」「乳化剤」の味がしました。
「これどうした? 買ったのか?××のものか?袋見せて」
慌てて訊くと、妻はこともなげに
「ええ、そうよ。××食品のよ」
と答え、袋を出してきました。
間違いありません。自分の開発した商品でありながら、うかつにもミッキーマウスの楊枝と、妻がひと手間かけてからめたソースのために、一見わからなかったのです。
「このミートボール、安いし、○○(娘の名前)が好きだからよく買うのよ。これを出すと子どもたち、取り合いになるのよ」
見れば娘も息子たちも、実においしそうにそのミートボールを頬張っています。
「ちょ、ちょ、ちょっと、待て待て!」
私は慌ててミートボールの皿を両手で覆いました。父親の慌てぶりに家族は皆きょとんとしていました。
・・・ドロドロのクズ肉が30種類の添加物でミートボールに甦る・・・
そのミートボールは、スーパーの特売用商品として、あるメーカーから依頼されて開発したものでした。
発端はそのメーカーが、「端肉」を安く大量に仕入れてきたことでした。端肉というのは、牛の骨から削り取る、肉とも言えない部分。現在ではペットフードに利用されているものです。
このままではミンチにもならないし、味もない。しかしとにかく「牛肉」であることには間違いない。しかも安い。
この「端肉」で何かつくれないか、と私に相談がきたのです。
元の状態では形はドロドロ。水っぽいし、味もなく、とても食べられるシロモノではありません。これを食べられるものにするにはどうしたらいいか--そこが発想の出発点でした。
まず、安い廃鶏(卵を産まなくなった鶏)のミンチ肉を加え、さらに増量し、ソフト感を出すために、「組織状大豆たんぱく」というものを加えます。これは「人造肉」とも言って、いまでも安いハンバーグなどには必ず使われています。
これでなんとかベースはできました。しかしこのままでは味がありませんから、「ビーフエキス」「化学調味料」などを大量に使用して味をつけます。歯ざわりを滑らかにするために、「ラード」や「加工でんぷん」も投入。
さらに「結着剤」「乳化剤」も入れます。機械で大量生産しますから、作業性をよくするためです。
これに色をよくするために「着色料」、保存性を上げるために「保存料」「pH調整剤」、色あせを防ぐために「酸化防止剤」も使用。
これでミートボール本体ができました。
これにソースとケチャップをからませれば出来上がりなのですが、このソースとケチャップも、いわゆる「市販」のものは使いません。そんなことをしていたら、採算が合わず値段を安くできないからです。
コストを抑えるために添加物を駆使して「それらしいもの」をつくり上げるのです。
まず氷酢酸を薄め、カラメルで黒くします。それに「化学調味料」を加えて「ソースもどき」をつくるのです。
ケチャップのほうは、トマトペーストに「着色料」で色をつけ、「酸味料」を加え「増粘多糖類」でとろみをつけ、「ケチャップもどき」をつくり上げます。
このソースをミートボールにからめて真空パックにつめ、加熱殺菌すれば「商品」の完成です。
添加物は、種類にして20~30種類は使っているでしょう。もはや「添加物のかたまり」と言っていいぐらいのものです。
本来なら産業廃棄物となるべきクズ肉を、添加物を大量に投入して「食品」に仕立て上げた ―― それがこのミートボールだったのです。
"「添加物のかたまり」でビルが建った"
この私の開発したミートボールは、売値が1パックたったの100円弱。そこまで安い値段設定ができた理由は、原価が20円~30円だったからです。
それは、発売を開始するやいなや、たちまち大ヒット商品となりました。
もう笑いが止まらないほど売れ行きがよく、そのメーカーはこの商品だけでビルが建ったと言われたほどです。 ヒットの理由は子どもと主婦に受けたこと。それは開発当時からの狙いでした。
使った肉はまずくて食べられたものではないけれど、添加物を駆使して子どもの大好きな味をつくり出したのです。軟らかさも子どもが2ロ、3ロ噛んだら飲み込めるようなソフトなものを狙ってつくりました。
また、真空パックで「チン」すれば食べられる「便利さ」も主婦に受けた要因です。
(中略)
"自分も家族も消費者だった・・・"
「パパ、なんでそのミートボール、食べちゃいけないの?」
ミートボールの製造経緯に思いをはせていた私は、子どもたちの無邪気な声にはっと我に返りました。
「とにかくこれは食べちゃダメ、食べたらいかん!」
皿を取り上げ、説明にもならない説明をしながら、胸がつぶれる思いでした。
ドロドロのクズ肉に添加物をじゃぶじゃぶ投入してつくつたミートボールを、わが子が大喜びで食べていたという現実。
「ポリリン酸ナトリウム」「グリセリン脂肪酸エステル」「リン酸カルシウム」「赤色3号」「赤色102号」「ソルビン酸」「カラメル色素」・・・。
それらを愛する子どもたちが平気で摂取していたという現実。
このミートボールは、それまでの私にとって誇りでした。
本来なら使い道がなく廃棄されるようなものが食品として生きるのですから、環境にもやさしいし、1円でも安いものを求める主婦にとっては救いの神だとさえ思っていました。
私が使った添加物は、国が認可したものばかりですから、食品産業の発展にも役立っているという自負もありました。
しかし、いまはっきりわかったのは、このミートボールは自分の子どもたちには食べてほしくないものだったということです。
―― そうだ、自分も、自分の家族も消費者だったのだ。
いままで自分は「つくる側」「売る側」の認識しかなかったけれども、自分は「買う側」の人間でもあ
るのだ。いまさらながらそう気づいたのです。
その夜、私は一睡もできませんでした。
添加物のセールスこそが自分の生涯の仕事と決め、日本一の添加物屋になってみせると意気込んでここまでやってきた。
添加物で日本の新しい食文化を築こうと本気で考えていた。
しかし、自分の「生涯の仕事」は何かがおかしい。
なんのためらいもなく、添加物を売りさばくことしか頭になかった自分。営業成績が上がることをゲームのように楽しんでいた自分。職人の魂を売らせることに得意気になっていた自分・・・。
たとえは適切でないかもしれないが、軍事産業と同じだと思いました。
人を殺傷する武器を売って懐を肥やす、あの「死の商人」たちと「同じ穴のむじな」ではないか。
<以上、「食品の裏側」より抜粋>
この日をきっかけに、安部さんは誇りを持っていた自分の仕事や立場を放棄し、すぐに辞表を提出するのです。
そして現在、北九州にお住まいの安部さんは、下は保育園児や幼稚園児から、上はご年配の方々まで、日本中を回って、食品業界の実情を訴えているのです・・・。
このまま続けるとものすごく長くなってしまうので、次回は安部さんから直接お伺いした話をご紹介したいと思います。
特にお子さんをお持ちの方にはぜひお聞きしていただきたい講演会でした。
なるべく日をあけずにUPしたいと思いますので、どうぞ今しばらくお待ちくださいね。
本日もご拝読いただきましてありがとうございました。
皆様のご健康とご多幸を心よりお祈りしております