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"ピカピカ 車検"マイスター 福岡・宗像

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2007.11.01
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小さな山間の駅に降りた
南へ10数キロ進むと、切り立った山の麓に一軒宿の
温泉が点在する最寄の駅である
ローカル線ではあるが、この先に若い女性の憧れる湯布院が
あるため、都会から観光特急が数時間おきに走っている
しかし、この小さく木造の古びた駅舎で降りる客はほとんどいない

手書きの観光案内で、ビジネスホテルを確認し、シャッターの
閉まった商店街の裏手を歩いた
晩秋の夕方
もう陽は沈んでいたが、ところどころにある水銀灯が、葉を
落とした老人のような木々を哀れに見せる
川面は深く、そして冷たく曖昧に流れを写している
ただ、仄かに鼻腔を刺激する硫黄臭と流れの音が、この川の
性格をわたしに教えてくれるのだ

「お待ちしておりました」
ホテルのフロントマンが、目礼しながら宿帳を出してきた
「一泊でよろしゅうございますね」
「ああ」
わたしは、偽名と偽の住所を書いた
なんとなく嘘を書くと、訳知りな気分になってくる
どうせチェックすることもないであろう

「確か昨年の今頃もお越しくださいましたよね」
愛想のいいフロントマンが聞いた
「どうして?」
「ここからタクシーを呼ばれましたよね。あそこの集落に
行く方って始めてでしたから」
「なるほどね」

晩秋
わたしの好きな季節である
一昨年、友人が一人寂しく逝ってしまった
急性心不全である
山奥の一軒家に友人の実家がある
ここの紅葉はちょっとした見ものである
年に一度、この季節に仏壇に手を合わせるのを勝手に決めていた
燃えるような木々の頃も、深い山から吹き寄せてくる涼風で
悪くないだろう
ただ余りにも騒がしい蝉の声と蚊の攻撃で、何も言わなくなった友人と
静かに語らえる雰囲気ではない

友人の実家には明日の起抜けに行くことにした
この時間になると、麓のこの街のタクシーでも嫌がるほどの
外灯ひとつない山奥にあるからだ
どうせなら、紅葉も楽しみながら行くと実家へ電話を入れた

ホテルの一階の入り口横に居酒屋が入っている
多角経営の一環なのか
利用者以外の客も狙っているのだろう
近所にはそれらしい店が見当たらない
「一杯飲みたいのだがね」
「裏口から左手に出ると数件ありますよ」
フロントマンの通りに外に出た
盆地のこの街の夜は底冷えする
客のクルマであろうか
フロントガラスに白いものが降りかかっている
駐車場を横切ると数件の飲み屋街が見えてきた

昨年は深夜近くに投宿したので、裏街を歩くのは初めてである
居酒屋、焼肉、うどん屋など一通り揃っているようである
地元の社交場という感じでもない
華やかさがないのだ
ひとつひとつが気だるさを醸し出しているからだろう

スナックもいかにもやり手婆さんが経営してそうな感じである
品定めよろしく、10軒ほどの店の前を歩いた
「しょうがねえや」
独り言を言いながら、そのうちの少し照明の明るい店に入った

「いらっしゃい」
店内を見回した
まだ時間が早かったのか最初の客である
予想通り、どこにでもある安直な造りの店である
ただオンナの数が多いようだ
「なんにするね」
「バーボン、ターキーをな」
そんなのあるわきゃねえだろといった表情でオンナは後ろを向いた
「ママァ~、バーボンってよ」
「2番棚の右上」
小さそうな給仕室の方から少し皺がれた声がした
オンナはカウンターへ廻って探しはじめた
下半身がいかにも使い込まれた形状である
生活感が漂ってくる

「こんばんは」
少しソバージュの細いオンナが、座ってきた
「お兄さん、ここの人じゃないみたいね」
「なぜ」
「だって洒落たクツだもん。土もついてないし」
可笑しそうに笑っている
確かにこの周辺は、畑や田圃が広がっている
「博多?」
「似たようなところさ」
「やっぱり・・・」
少し悲しげな表情で俯いた

先程のオンナが、ターキーとアイス、そしてロックグラスを
二つ黙って置いた。
「わたしにも飲ませてよ」
「ああ、俺が作ってやる。見てろよ」
グラスにロックアイスを数個入れ、マドラーでしばらくかき混ぜる
「こうすると、ほらグラスの熱を奪ってアイスが溶け出しただろ」
黙ってオンナはグラスを見つめている
「二つ分のアイスが入るよな。ここでバーボンを入れるんだ」
「詳しいね」
「いや、これが俺の流儀さ」

ロックである
ボトルの減り、そして身体に染込むピッチは早い
横顔が、いや横から見る唇が印象的なオンナである
触りたい衝動に駆られる
厚く柔らかく、そして濡れたようなルージュが、わたしを誘っている
かのようだ
「博多に来ることは」
「もう数年ないわ」
「そうか、たまには都会もいいぜ」
「でも3年前まで15才上の彼氏がいたところなの」
「苦い思い出か。何年付き合ってたんだ」
「2年半ってとこかな」

もう少し飲ませて誘ってみるか
ワイルドターキー
度数は50度である
ケンタッキーバーボンの独特な香り、いや好きでなかったら
匂いで、ブランデーより酔いが廻りやすい
ましてロックである

「おれ、お前のこと気に入ったぜ」
「わたしも、あなたの飲み方にオトナを感じるの」
「フフフ、来週博多に来いよ」
「そうね部活が終わって・・・」

わたしはアタマの中で算盤を弾いた
最低でも、18才-3年前=15才・・・
中学生が15才上の・・・
悲しいよな・・・

「そうだな来年来いよ、お愛想」
若いオンナは好きだが、わたしには少女趣味はなかった
店を出ると吐く息が白かった
博多より星が近くに見えた
明日は朝が早い













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Last updated  2007.11.01 19:46:31
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